"関西弁のジョブズ"支える中村天風とは 日本電産社長・永守 重信氏
もしジョブズが関西弁を話して講演したら…

永守重信 日本電産社長
経営者がリーダーであるのは言うまでもない。言葉と行動で組織のベクトルをあわせ「帝国」を作り上げれば、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズのようにカリスマ経営者と呼ばれる。
1年ほど前、都内で開かれた日本電産の投資家向け説明会。永守重信は約2千人の個人投資家らを前に演壇に立っていた。もし、ジョブズが背広を着て早口で関西弁を話して講演をしたら、いったいどんなものだろうかと思ったことがある。ジョブズは名スピーカーとして世界に知られるが、人の心をつかむ永守の話術にも並外れたものがある。永守は実は旧・職業訓練大学校で大学新聞の編集主幹を務めていたのに加え、弁論部にも所属していた。歯に衣(きぬ)着せぬ語り口に、同社発展の重みが加わり、永守には講演依頼が殺到する。
ジョブズは親に捨てられた経験を持つ。永守は貧しい家庭に生まれ、父親も若くして亡くした。挫折の経験と日々の判断の積み重ねが人を磨くと話す永守には経営者も訪ねてくる。かつて、ユニクロ代表の柳井正もやってきた。最近も「赤字になった会社のボンボンが相談にきたのでこう言った。大けがじゃなくてよかったじゃないか。挫折しないと、高い山には登れないよ」。若手経営者は目線をあげて永守と別れたことだろう。
「運命は自分の言葉と行動で決まる」。この永守の人生訓は中村天風述『成功の実現』の次の表現に影響を受けたものだ。

中村天風 「成功の実現」、「盛大な人生」、「心に成功の炎を」
中村天風は、パナソニック、京セラのそれぞれ創業者である松下幸之助、稲盛和夫ら多くの経営者が信奉してきた。宇野千代著・中村天風述『中村天風の生きる手本』のなかで中村は、華族となった一門の家に生まれたものの「大名華族の生活に嫌気がさしちゃって」「詐欺して、泥棒する」軍事探偵となり活躍。だがその後、肺結核を患い、欧米を遍歴。帰国する途中のインドで心と身体の健康法を身につけたという。
中村はロングセラーとなっている本のなかで、心を打つ様々な逸話を織り交ぜながら、平易な言葉で前向きな心の姿勢や信念の重要性を繰り返し説く。これが孤独な企業家を引き付けてきた理由だろう。