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 東日本大震災の直後、田中良和はおいしいお寿司を食べるため男友達と佐賀県唐津市に小旅行した。途中、みんなで桜の名所に立ち寄ったときのことだ。
 「あと40回か50回ぐらいしか、この美しい桜を見ることができない」。1977年生まれの田中はこうポツリと漏らした。30歳半ばにして、企業家としての名声と巨額の富を手にした男の口から出た言葉は、1つ年長のライフネット生命保険副社長の岩瀬大輔らを驚かせた。はかない桜が田中は大好きだ。
グリーの田中良和社長

グリーの田中良和社長

――死を見つめて、生きる――

ある悩みを抱えていた大学4年生のとき、母に誘われ、末期治療を受けている親類を病院に見舞った。ベッドに横たわる男性の目はうつろで、体のあちこちからチューブが延びていた。幼い頃、お年玉をくれたこの人が、もし自分の悩みを知ればどうだろうかと考えた。

「良和くん、そんな悩みなんて大したことじゃない。君はこれから生きて行けるのだから」。こう言われるに違いなかった。いつか、僕も死ぬ。その直前に後悔することがないよう、限りある人生を必死に生きよう――。こんな思いがますます強くなった。

田中が大好きな漫画がある。彼が生まれる数年前、週刊少年チャンピオンで連載が始まった『ブラック・ジャック』(秋田文庫・1993年ほか)だ。医師資格を持っていた手塚治虫が、主人公の天才外科医の生き様を通し人間愛や生命の尊さを描いた不朽の名作。

主人公のブラック・ジャックは手術を懇願されると、貧乏人であっても高額な報酬をふっかけたり、お金の代わりに一番大事にしているものを差し出せと要求したりする。

「必死に生きようとしている人しか助けない。生きることは素晴らしいということと、死(という恐怖)に直面した人間が生きるためには何でもやるということとのギャップを描いています」。こう解説する田中は今も行き詰まると手塚作品を手にとる。「死ぬよりはいいじゃないか、と思うわけです」

戦争や大病などで一度、死の淵をのぞいてしまうと、それ以外のことはそれほど怖くなくなる。高齢になって死の気配を初めて感じておびえる人もいれば、田中のように若くして覚悟を決め、前向きに生きるエネルギーへと転じることもある。

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