経営戦略・組織の本質、名著との出合いで知る
ソシオネクスト会長兼CEO 肥塚雅博氏

肥塚雅博氏と座右の書・愛読書

こえづか・まさひろ 1951年大阪府出身。経産省退官後、富士通副会長を経て、2018年から同社とパナソニックの半導体事業を統合したソシオネクストで現職。
大学で学ぶ法律や政治制度や経済の仕組みはいずれも西洋から輸入した「舶来洋式」に基礎を持つが、実際にそれを運営するのは日本人だ。そこから、京極先生は、日本の政治は一面では舶来風であり、もう一面では何とも日本的であると喝破した。この議論は大学に入ったばかりの私には非常に新鮮で、舶来の制度と日本社会のぶつかり合いを通じて日本の様々な制度や組織、慣習が形成されてきた、という認識は今も私の中で続いている。
大学での講義をもとに編さんされた『日本の政治』は、「親心」や「肚(はら)芸」といった独特のキーワードを使って、自民党支配の続く日本の政治を解説した名著。京極先生の文章の特徴は対象を突き放す身も蓋もなさであり、毒舌の魅力ともいえる。別の著作で出合った「政治家や官僚もまた、善と悪の両方の能力をもつ、ありきたりの、生身の凡俗であるにすぎないから、偽善家、偽悪家の両方の自己欺瞞(ぎまん)があるのだ」という言葉に深く納得した覚えがある。

1980年代から90年代にかけ、米国とは半導体など情報・電子分野で、欧州とは自動車や電子分野で厳しい交渉を繰り返した。当時の日本と欧米は互いの産業が上りと下りで交差する局面だったが、後から振り返ると、一連の交渉は日本人の慢心と米欧の戦略的再構築が相対する場でもあった。
当時は資本主義の多様性や日本的経営の強さについての議論が盛ん。『経済システムの比較制度分析』は資本主義システムの多様性を論じた。「終身雇用制」「企業別組合」「内部昇進による経営」などの様々な制度が相互に支え合う制度的補完性を持ち、その進化には「経路依存性」があると指摘した。当時は日本の強さを説明するための議論では、と嫌みを感じないでもなかったのだが、今やこの論理がそのまま日本の改革の難しさを説いていると気づき、その普遍性に改めて驚く。