人手不足時代の人材育成 リーダーシップも変革を
立教大学教授 中原淳

人材開発については、松尾睦著『「経験学習」入門』(ダイヤモンド社・11年)や本間浩輔著『残業の9割はいらない』(光文社新書・18年)が詳しい。業務能力を伸ばすのは、いわゆる「研修」だけではない。既存の業務能力では直ちに解決できないストレッチ(背伸び)を含む仕事を割り当て、適切にフィードバックや業務の振り返りを促すことが重要だ。『「経験学習」入門』は平易にその理論と効用を説き明かす。
『残業の9割はいらない』は、経験学習を人事の仕組みとして導入し、人材開発の刷新をはかったヤフーの事例である。同社常務執行役員の本間氏が人事責任者だったときに導入した部下と上司の定期的面談(1on1)について詳細に論じている。コミュニケーションの頻度をあげて、いかに業務の振り返りを促すかが、経験学習の浮沈を決める。働き方改革をすすめるうえでのヒントも満載である。
職場を「組織開発」
職場の機能不全に関しては、石川淳著『シェアド・リーダーシップ』(中央経済社・16年)や中村和彦著『入門 組織開発』(光文社新書・15年)から多くを学ぶことができる。職場やチームのコミュニケーションを円滑にし、また成果をあげるためには、リーダーシップが欠かせない。しかし、現代の職場に求められるのは、カリスマ性や権力を持つ個人がメンバーを叱咤(しった)激励し、牽引(けんいん)するトップダウンマネジメントではない。メンバー全員が自らの強みを活かし、リーダーシップという現象が生まれることに「貢献」するシェアドリーダーシップ(共有型リーダーシップ)が求められている。
『入門 組織開発』は、近年注目を集める「組織開発」について、基本から学ぶことができる。組織開発とは、職場やチームが組織の問題を「見える化」して対話を重ね、成果創出につなげる試みである。環境が多様になるほど、職場やチームをまとめあげる諸力が組織内には必要になる。それぞれの職場リーダーが自らの職場を「組織開発」することができれば、これまでにない成果や生産性に期待できるかもしれない。