柴田錬三郎に学んだ度量と先見性 農家は一国一城の主
全国農業協同組合連合会会長 長沢豊氏

長沢豊氏と座右の書・愛読書

ながさわ・ゆたか 1950年生まれ。2017年から現職。山形農業協同組合の会長、山形県農業協同組合中央会の会長などを兼務している。
大学生のころに読んだのが、加藤諦三の『生きる』です。自分には自分の生き方がある。人に惑わされず、しっかりとした自己を持っていなければならない。柳のようにしなやかな発想が必要で、堅い枝はぽきんと折れてしまう。そんなことを学びました。
自分なりの夢を抱いて人生を歩まなければならないということも、この本を読んで感じたことです。大学では先輩に恵まれ、全国各地から来たたくさんの友人と交流しました。勉強熱心だったとはいえませんが、楽しい学生生活でした。そうした日々の中で、心に秘めた夢がありました。
自分の先祖は江戸時代、冷害で村の人々が年貢を納められなくなったとき、藩主に苦境を直訴して親子で処刑されました。今で言う農民運動です。屋敷があった場所は神社になり、今も2人がまつられています。父親も農協の組合長をやった人で、地域のブドウのブランド化に努めました。強く意識していたわけではありませんが、何かしら地域の役に立ちたいという思いは学生時代からありました。

就農したころに読んだのが、柴田錬三郎の『大将』です。佐世保重工業を再建し、奥道後温泉を開発した坪内寿夫をモデルにした小説です。当時、柴田錬三郎は大変な人気作家で、何か読んでみようと思い、手にとってみたのがこの本です。眠狂四郎など時代物で有名な小説家にしては珍しいテーマを扱った本だと思い、興味を持ちました。
この本で感じたのは、人間の度量と先見性、人と人のつながりの大切さです。地元のブドウはブランドが確立できていて、まじめに働けばその分所得が増えます。希望を持って就農しました。ただ市場価格には常に波がある。そこで貯蔵庫を造り、出荷を調整することにしました。相場を読み、勝負に出てぴたりと当たるとじつに楽しい。トラック1台で30万円から40万円にもなる。必要なのは戦略です。農家は一国一城の主、大将なんです。