「縁大切に」広がる商品 定年後も営業の第一線に
東急ハンズ 田口雄久さん
取引先から提案

3年前、田口さんは化粧品メーカーの担当者との雑談のなかで、取引のある別のメーカーの話題を出した。すると担当者から「関係が良好な取引先がそれだけあるのなら、郵便局のカタログ通販向けに販売してみてはどうですか」と誘いを受けた。このメーカーは以前から郵便局と取引があったことから、すぐに担当者を紹介してもらい、すんなりと取引が始まった。
雑談を重視する田口さんは商談に入ってもすぐには商品の話はしないという。相手の出身地などを話題として会話を広げる。「人は初めて会う時にはお互いかしこまったり、話が弾まなかったりする。商売の話だけで終わるのは嫌なんです」
「この人をどう笑わそうかと考えながら話している」という田口さん。友達のような関係を築くことを目標としており、ある歯ブラシメーカーの担当者からは最初の面談ながら「初めてあったような気がしない」と握手を求められたこともあるという。
田口さんは中途入社で東急ハンズに入った。東京都内の店舗に配属され、店内を駆け回る日々が続いた。当時の東急ハンズは店舗スタッフが商品の仕入れも担当していたという。
店頭で来店客の生の声を聞き、需要がありそうな商品を見つけると電話帳でメーカーを見つけて電話をかけた。顧客が望んでいた商品を作っているメーカーが無い場合は、特別に生産してもらうこともあったという。
自宅訪ね接客
時には顧客の家まで出向くこともあった。当時流行していた組み立て家具の作り方がわからないと顧客から電話がかかってきたときには、自宅まで赴いて手助けしたという。「喜んでいただいたことが嬉しかった。接客が楽しかった」
田口さんは取引先に困ったことがあれば何でも協力もする。あるメーカーから中国向けのネット通販を始めたいという相談を受けた際には、東急ハンズで取引のある越境ECを紹介した。靴下を扱うメーカーから東急ハンズの店頭でも売りたいという要望を受けたときには、店舗担当者にすぐにつないだ。
今年60歳で定年を迎えた田口さんだが、シニア社員として働き続けている。7月には「ファンの獲得」などを評価され社内表彰も受けた。「これからも多くの人に出会えるように営業の一線で頑張りたい」と元気だ。
(勝野杏美)
木材卸会社で営業を経験し、1982年に東急ハンズ入社。店舗勤務などを経て、カタログ通販関連の仕事を担当する。19年からシニアアドバイザーになった。