気さくな会話から万年筆「珠玉の1本」 ニーズを開拓
銀座伊東屋本店 伊藤真美さん

伊藤さんは客との会話を通じて最適な万年筆を提案する
1本数千円から数十万円まで多種多様な万年筆が並ぶ文具売り場で17年間活躍する販売員がいる。銀座伊東屋 本店(東京・中央)の伊藤真美さんだ。積み重ねた接客スキルを生かし、1500本もの万年筆の中から顧客に合った「珠玉の1本」を選ぶ。一人ひとりに寄り添いながら、見えないニーズを掘り起こす。
銀座伊東屋の3階、多種多様な万年筆がショーケースに並ぶ高級筆記具売り場で、伊藤さんはひときわ丁寧で親しみやすい雰囲気で顧客に話しかける。高級品の印象が強い万年筆だが、一度店内に足を踏み入れると伊藤さんら従業員の気さくな声がけから万年筆選びが始まる。
特に初めて訪れる顧客は多種多様な万年筆に目移りするが「万年筆は話しながら決めるのが基本」(伊藤さん)という。書き心地、機能性、デザインなど自分に合った商品を見極めるには、まずはペンを手に持って書いてみることをおすすめする。なめらかな書き心地か、引っかかりがある方がいいのか、好みは人によって千差万別だ。
顧客の好みを聞いた上で、伊藤さんは顧客自身も気づいてないニーズを掘り起こす。「キリッとした雰囲気の女性であればスパイスのきいた色味の商品を提案することもある」という。顧客自身はピンク色を探していたとしても、選択肢を広げると、視野に入っていなかった商品が一番自分に合っているという発見につながる。客が伝える好みだけでなく、販売員自身がどのように万年筆を使ってほしいのかという視点を大事にする。
伊東屋の高級筆記具売り場では文具ブームの後押しもあり、ここ5年で若年層の顧客が増えた。客の雰囲気に合わせて会話をカジュアルにするなど、老若男女問わず寄り添って万年筆選びをサポートする。
選択肢が絞られても最終的にどの1本を買うのか、万年筆選びには時間がかかる。1~2時間かけて悩む顧客もいる。伊藤さんは「悩んだときは『また来ます』がいい」と言う。無理にその日に決めることは勧めない。頭をリセットして再度来店した時こそ、どの万年筆に魅力を感じるのかわかることがあるためだ。
伊東屋に入社したのは2003年。子どもの頃から文具が大好きで、伊東屋が第1志望だった。小学生の頃は鉛筆や消しゴムなどを集め、大事に使っていた。お土産でもらった伊東屋オリジナルノートは大切に保管して結局使わなかったほど思い入れがある。
入社当初から高級筆記具売り場を担当し、現在まで17年間、第一線で活躍する。先輩販売員だけでなく、時にはコレクターの顧客から学びながら、多種多様な万年筆の知識を蓄積した。若い顧客らに合わせて気さくな会話も得意だが、根底にあるのは入社当初から伊東屋で大切にされてきた丁寧な接客だ。商品を扱うしぐさや身だしなみ、言葉使いは細部まで洗練されている。
伊藤さんは「気負わずに選んでほしい」と話す。機能面だけでなく、ペンのデザインが好きかどうかなど直感で選ぶことも大事だという。「ペンを持った自分が格好いいと思えるものを探してほしい」とほほ笑んだ。
(下川真理恵)