志を貫く美意識に感銘 変革期のリーダー像示す『峠』
レノバ会長 千本倖生氏

千本倖生氏と座右の書・愛読書

せんもと・さちお 1966年京大工卒、84年に稲盛和夫氏らと第二電電(現KDDI)を創業。99年イー・アクセス(現ワイモバイル)創業。2015年から現職。
一人の神父さんの導きでした。私が育った奈良に、オーストラリアから布教に来られた。戦争の記憶が残り、日豪関係が悪かった頃です。だからこそ架け橋になろうと、援助や交流活動に大変な尽力をされた方でした。
教会で一人端座し、お祈りする背中が胸に刻まれました。全て受け入れ、できる限り授ける。神の手に委ねる姿をみて聖書を読もうと思ったのです。聖書のことばは朽ちることなく、現代も不変の真理を与えてくれます。彼は20代で単身で日本に赴き、最期も日本の土になることを選んだ。亡くなる前にお会いしたとき、「センモト、ぼくはガンになっちゃった」と笑っておっしゃった。深い葛藤があったはずです。しかし一切見せない。すさまじい生き様だったと思います。
信仰における葛藤では、『沈黙』を読んで深く考えさせられました。日本に赴いた宣教師が、棄教を選ぶ。それは弟子たちを弾圧から救うためでした。西洋とは異なる視線で信仰のかたちを問うものでしょう。
学生時代に仲間と議論して読んだのが『カラマーゾフの兄弟』です。ミステリーであり、恋愛小説でも思想小説でもある。自由を問い、神を問い、民衆への愛にもあふれている。私は聖書の小説版だと捉えています。10年に1回は読み返し、そのたびに読み方が変わる。最高傑作といえますね。

大きな決断でした。その目標は正しいのか、本当に世の中のためになるのかと自ら問いかけました。そうした原点に立ち戻るとき、啓示をくれたのはやはり聖書でした。あすのことは思い悩むな、それがいいことであるなら天の神は考えてくださる、と。
稲盛さんとの出会いがありました。経営の幹部会や、「コンパ」といって多くの社員で鍋を囲む会合などの場で、仕事の実体験をもとにした哲学を直接伺うことができました。利他の心や働く喜び、感謝の気持ち。いま思えば素晴らしい機会でしたね。