組織・個人の責任ハッキリ 社員に求める仕事師の顔
アシックス 広田康人社長(上)

アシックス社長 広田康人氏
アシックスの広田康人社長は社員に「仕事師であれ」と説く。自分の仕事は誰よりも自分が熟知している――。そんなプロフェッショナルな意識の醸成によって「組織における一人ひとりの責任を明確にしたい」。2018年に三菱商事から転じて社長に就任した。新型コロナウイルス禍や東京五輪・パラリンピック延期の逆風にも見舞われながら、社内の意識改革に取り組む。
――リーダーの条件は何だと思いますか。
「『これがリーダー』という明確な答えはありません。個性や人柄によっても違うのではないでしょうか。ただ最低限の条件はあると思います。前向きであること、ぶれないこと、健康であること、好き嫌いではなくパフォーマンスで人を判断すること、などです。これらの基礎は守っていかないといけない」
「基礎を徹底することは、部下の安心感にもつながります。部下に『この人について行って大丈夫かな』と思われるとよくない。成果を出す、約束を守る、遅刻をしないなども最低限の条件ですね」

社員と積極的に交流し、まず話を聞くことを心がけている
――商社から転じてスポーツ用品大手の社長に就任しました。
「当時アシックスの尾山基社長(現会長)とは経済界でお付き合いがあり、誘われました。『本当かな』と思いましたが、悩むことはなかったです。アシックスのシューズはずっと履いていて好きなブランドだったのでうれしい話でした」
「三菱商事ではスタッフ部門が長く、スポーツ用品に携わっていたわけではありません。ただ経営者として物事をみる意識はそのころから持っていました。アシックスでは最初は顧問として3カ月間、様々な人と話をさせてもらい、それから社長に就任しました」
――リーダーとしての心構えを社員にどのように伝えていますか。
「三菱商事時代、当時課長だったチームリーダーから『自分の仕事を誰よりもできることが大事』と教わりました。こういうリーダーになりたいと思える先輩で、毎晩のように飲んで議論し、哲学を学びました」
「アシックスに来てからはかつての先輩と同様に社員に『仕事師になってくれ』と言っています。自分の仕事がどういうものでどう回っているのか、しっかり把握することが重要です」
――社長就任当初は業績が停滞していました。
「アシックスの連結売上高は15年12月期をピークに減少していきました。米国ではライバルに押されシェアが低下しました。そして20年はコロナの影響もありさらに落ち込みました」