組織・個人の責任ハッキリ 社員に求める仕事師の顔
アシックス 広田康人社長(上)
責任を明確に、組織も改編
「背景にはスポーツウエアを街着として着る『アスレジャー』の流れもありました。アシックスは流れに中途半端にしか乗れていなかったためです。再び成長軌道に乗るために、組織に手を入れました」
「本社の製造や開発の現場と、販売会社とに距離があると感じていました。『私作る人、あなた売る人』みたいな状態だったのです。そこで本社と販売会社という機能別の分け方ではなく、『ランニングシューズ』『ウエア』などカテゴリーごとに組織をまとめ、それらを本社で統括するカテゴリー制に変えました」
――組織改編には反発もあったのではないですか。
「本社よりも販売会社の方が抵抗があったと思います。それまでは本社が『ランニングシューズを売ろう』と打ち出しても、販売会社が『売れるならテニスのカテゴリーでもいいでしょう』と応じるような状況が起きていました」
「なぜ組織を変える必要があるのか、私はその理由を説明しました。議論がうまくまとまらず、摩擦が起きることもありました。でも最終的には社内や販売会社の納得が得られ、方針が固まりました。みんなも、このままではだめだ、変わらなきゃいけないと感じていたのだと思います」
――カテゴリー制の導入で何が変わりましたか。
「本社が販売の方針や目標を決め、販売会社がそれを遂行するという役割分担が明確になりました。本社と販売会社との議論がかみ合い、生産的な話もできるようになりました。本格導入から3年目に入り、すっかり浸透したと思います。営業利益率の改善など数字にも表れてきました」
「組織としての役割分担を明確にすることは、従業員に仕事師になることを求めることと通じるものがあります。どちらも『あなたの責任はこれですよ』とはっきりさせる狙いです」
社内ブログで考え発信
――企業には多くのステークホルダーがいます。考えをぶれずに通すことが難しい場合もあります。
「アシックスとして大切にしている基本は変えません。ランニングシューズ中心でいく戦略もそのひとつです。もちろん状況に応じて変えることは大事です。戦略を変えることもあれば、低収益事業から撤退することもあるでしょう。しかし考えの基本がぶれると社員はどこを向いたらよいのか分からなくなります」
「ぶれないことは難しいです。人間なので感情もあるし、立て込んでくると色々なことを考えてしまいます。でもそこは判断の基軸がぶれていないか、自分で意識して確かめないといけません」