危機下ではトップダウン、社長の力で「ワンチーム」に
アシックス 広田康人社長(下)
自ら実践し、背中を見せる
「でもこれは何回も使える手ではありません。危機的な状況だからこそやれたことだし、やっていいことだと思います。何でもかんでも社長直轄にしたら、それは会社ではなくなり、会社の力がかえって弱くなります。通常の組織のなかでイノベーションが起き、商品が開発され、それがちゃんと売れていくのが一番良い流れだと思います」
――リアルタイムでフォームを分析できるスマートシューズなど、デジタル化への対応も重要課題です。
「私はデジタルネーティブじゃないので追いつくのに苦労しています。デバイスも作れないし、アルゴリズムの計算も分からない。それでもデジタル化は絶対に必要だと感じています。商品、製造、販売のすべてにデジタルの発想を入れて考えてくれと言っています。どこをどうデジタル化すべきなのか、現場から聞き取って重点投資します」
「まだ途上ですが、アシックスはデジタルドリームカンパニーを目指しています。自分たちだけでできないことはカシオ計算機などのパートナーと組むことでクリアしたい。新興企業とも一緒にやっていきます。様々な連携から新しい製品が生まれると思うと、何だかわくわくしますよね」
――部下の育成では何を気をつけていますか。
「昔は意図的に怒鳴ることもありましたが。若気の至りですね。怒鳴られたら気分が悪いですから。相手の立場に立つことが重要です。今はよほどのことがないと怒鳴りません。また注意するときは人前ではなく、個室で話します」
「リーダーは自分が思うよりもみんなに見られていることを自覚すべきです。仕事をちゃんとこなしているか、公私を区別しているかなど。みんなに『そうなれ』と指示するなら、まず自分が実践しないとだめですね。背中で見せる。部下は背中を見ますから」
仕事に「わくわく感」を
――リーダーとしての哲学はどのようにして形成されたのでしょうか。
「誰もが最初はリーダーではありません。私も経験や失敗を積み上げて、リーダーになりました。三菱商事では広報課長時代に初めてマネジメントも経験しました。当時は三菱商事社員が人質になったペルー日本大使公邸人質事件やアジア経済危機などの危機に直面しました。広報担当として報道関係者と向き合いながら、さまざまな経験を積みました」