第2回 部下とのコミュニケーション基本4原則を理解する
井上オフィス代表 井上 健一郎

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前回、チームの成果を高めるために最初にやらなければいけないことは、コミュニケーションの良いチームを作ることだということを次の図で示しました。

コミュニケーションの良いチームでないと、メンバーのモチベーションは上がりません。コミュニケーションを良くするために気を付けておかなければいけないことがいくつかありますので、今回はその点について述べていきます。
人の動作はほとんどが「無意識」
人の動きの90%以上は無意識によるものだと言われていることをご存知でしょうか。
脳は一日約5万回働くと言われています。その90%以上が無意識の働きだと言われています。確かに心臓を意識的に動かすというようなことはありません。そのような生命維持のために働く脳の動きも含まれていますが、次のような面も無意識下にあります。いつも通り家を出たあと「あれ? 鍵かけてきたかな?」と心配になり戻ってみるとちゃんと鍵がかかっていたというようなことです。無意識のうちにいつもの行動を取っているのです。
無意識の動作のほとんどは習慣化されたもの、クセになっているものです。その中には言動もあり、口癖などは無意識下のもののひとつです。
実は、この無意識の言動が人とのコミュニケーションに大きな影響を与えていることを知っておくことが大事です。
部下に指示をするときに「こいつ大丈夫かな? ちゃんとできるかな?」という気持ちが根底にあれば必ず顔や雰囲気でその気持ちを醸し出しているのです。
ネガティブな感情は相手に伝わる
おそらく、何かをきっかけにその部下に対して不安を抱くことがあり、それが度重なったために、その部下と対峙すると不安な気持ちが先行することが習慣化されたのです。そして、不安な気持ちになると眉間にしわが寄るというようなクセを持っていれば、その二つは見事に重なり、本人は知らない間にしっかり表現しているのです。
「相手に対するネガティブな感情は、必ず相手に伝わっている」ということを認識しておくことがコミュニケーションを考えるうえでとても大事なことなのです。
これをできるだけ避けるためには、メンバーに接するときに、まずメンバーそれぞれのプラス面に意識を向ける訓練をすることです。
「こいつ大丈夫かな?ちゃんとできるかな?」と無意識が反応する前に、「こいつは締め切りは必ず守るやつだから、締め切りを少し早めに設定して、検証できる時間を作ってあげればちゃんとできるんじゃないかな」というようにまずプラス面を意識して考えるようにするのです。
そのうち、相手のプラス面から考えることが習慣化されると、あなたと接するメンバーの顔がいきいきとしていることに気づくはずです。
聞きたくないことは腹に落ちない
人が話をするときに、相手の話に対してどのように感じるものなのかということを知っておくことは、リーダーとして指示を出す、指導するという時にとても大事なことです。
以下に示す、コミュニケーションの基本4原則は、実に当たり前のことなのですが、「指示どおりやらせなければ!」「指導しなければ!」と考えていると、どうしても自分が言いたいことを言うことに重きを置いてしまい、それを言ったら相手がどう思うかということに無関心になってしまいますから、意識しておく必要があるのです。
コミュニケーションを良くするために知っておかなければいけない。基本原則と言えます。
人は「聞きたくないことは、言われても腹に落ちない」
メンバーの育成のために指導するときなどに特に起こることですが、「もっと早い時期から動き出した方が、締め切りにあわてないでいい仕事ができるぞ」というように良かれと思ってアドバイスしても、もしかすると部下は、「何言ってんの、人の事情も知らないで」もしくは、「そんなことは分かっていますよ。できればとっくにやっていますよ」というようなマイナスの感情で聞いているかもしれません。それでは、アドバイスは有効になりません。
相手が初めに聞きたいのは、締め切り間近であわてない方法ではなく、締め切り間近であわててしまう事情があることを理解していることなのです。
「いろいろあって大変だな」「一生懸命がんばってるね」など相手の事情や努力について一言触れることがどれだけ大切なことか、メンバーのやる気を引き出すために、リーダーが知っておかなければいけないことです。
その上で、「今のままだと、大変さが変わらないから、なんとかしたほうがいいよね。時間的にきつくなってしまう原因はなんだか分かる?」と具体的な対策に入っていくのが得策です。起きている現象に対して本人がどう思っているのかを聞き出すのです。
もし、全く本人の自覚が足りないことが分かったときは、しっかり叱る必要がありますが、自覚している場合は、一緒にその原因について考えてあげることから始めることは有効です。
相手は、自分の事情も知らない人からのアドバイスは聞きたくないのです。
人は「嫌いな人のいうことは、耳に入らない」
「あの人には言われたくない」という言葉を聞いたことは誰しもあるでしょう。何かのきっかけで相手のことを嫌いになってしまったら、どんなに正しそうなことを言ったとしても聞く耳は持ちません。嫌われたら、指導・指示が相手の気持ちに届くことはないのです。
しかし、決して嫌われないようにするために媚を売れと言っているのではありません。
ビジネスの世界ですから、好き嫌いでものごとを判断すべきでないことは当然です。部下がどんなに嫌いな人の言うことでも話の妥当性があれば、しっかりと受容するようになることが本来正しいことです。しかし、実際には好き嫌いが生産性にかなり大きく影響することをリーダーの立場にいる人は理解しておく必要があるでしょう。
嫌われないために最も重要なことは、みんなの先頭に立ち、逃げない姿を見せることです。
「いやなことから逃げない」そう決めることです。メンバーから好かれる、嫌われるということではなく、自分は逃げないと決め、それに従って行動することで信頼を得ることを優先しなければいけません。
以上は、人がコミュニケーションの場で「相手」に関して感じる原則について述べましたが、このほかに「話の内容」に関する原則もあります。次の2つが「話の内容」に関する原則ですが、その話は次回にします。
基本原則4 人は「自分のためになると思えば、聞きたくなる」
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井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年4月23日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]