第8回 「課題」を発見する力を育成する チームのモットーを意識づける(2)
井上オフィス代表 井上 健一郎

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この連載で述べているチームビルディングの最終目標は何だったでしょうか?
そうです。「創造力」のあるチーム作りです。
新商品の開発、新技術の開発、新たな販売チャネルの開拓、製造方法の改善、収益構造の改善など会社にとって新しい価値となるものを産み出すことが「創造力」のあるチームということになりますが、そのためには、価値を産み出すための「材料」が必要になります。どこを改善すればもっとよくなるか、どこに着目すれば新しい価値が産まれるかといったキーポイントです。
しかし、その「材料探し」が非常に重要だということに「意識」が向いていないチームでは、チームの「思考力」は動き出しませんし、「創造力」も生まれません。
このような「材料探し」は、すなわち「課題発見」で、どれだけ課題を感じようとしているか、発見しようとしているかという意識が、創造力を発揮できるチームになれるかなれないかを決めるのです。

日本の高度成長を真に支えた原動力となっていたのも、「カイゼン」のような課題発見の仕組みでした。
「課題発見」が定着しているチームの創造力が高いことは、今も昔も変わりません。リーダーは、課題発見を文化にするためにいろいろ工夫をする必要があるのです。それが内的生産性の意識育成に向けてもうひとつの課題となります。
課題発見の最大のチャンスは、失敗や問題発生
課題発見の最大チャンスは、失敗や問題の発生など、マイナスとなっている場面にあるということを最初に認識する必要があります。
多くのマイナス場面で、処理に追われて課題発見にまで至れないわけですが、その理由はいくつか考えられ、概ね以下の理由です。
・失敗をしたこと、問題が発生したことによって気持ちが動転している
・責任を追及されて苦しい、落ち込んでいる
・上司から早急な対応を迫られる
・誰も助けてくれない
・評価が下がることを怖れる
以上のような精神状態の中では、当事者が自分だけで課題を発見することは極めて難しいと言えます。さらに、チーム全体が、失敗や問題が起こると常にピリピリとしたムードになるようでは、なおさら無理です。それほど、失敗や問題発生の場面で、チームの雰囲気は、「課題発見」の成否に大きな影響を及ぼすのです。
リーダーも、メンバーの起こした失敗や問題に平然として臨むことは難しいところではありますが、その時のあなたの態度をメンバー全員しっかりと見ていることを知っておいてください。そのときのあなたの「在り方」がチームの風土・文化となると言っても決して過言ではありません。メンバーは、通常の平時よりも異常時のときのリーダーの言動をよく観察していますから、いっそう気を付けなければいけません。
失敗や問題発生にあたって、みなさんに意識して使っていただきたい言葉があります。それは、以下の3つです。
・チャンス
・ドンマイ
・ナイストライ
「これをチャンスに変えよう」「これは、今まで通りではいけないと気付くためのチャンスかもしれない」「今回のことをチャンスとして捉えたら、もっと考えなければいけないことがあるんじゃないか」
「ドンマイ、次、気をつけよう」「ドンマイ、悩んでないでまず対応を一緒に考えよう」「ドンマイ、失敗は誰にでもある。それをどう生かすかが大事だよ」
「ナイストライ、君だけじゃなくチームとしていい経験ができた」「ナイストライ、失敗を恐れず次もがんばってくれ」「ナイストライ、いろいろな情報を得られたね」
*どの言葉も単独で使うことも有効です
「チャンス」、「ドンマイ」、「ナイストライ」という言葉は、重みのある言葉ではありませんから、「そんな言葉でいいの?」という疑問をいだく方もいると思いますが、ちょっとした会話の中に織り交ぜたこれらの言葉の効き目はかなりあります。
私が知っているリーダーの中に、これらの言葉をまさに良く使う方がいます。その人は部下から「ドンマイ」というあだ名をもらっているくらいですが、私が見ていて、そのチームの生産性の高さは非常に高いですし、ミーティングなどでもアイデアがどんどん出ます。その要因は、そのリーダーが「チャンスだよ!」「ドンマイ!」「ナイストライ!」と声掛けしていることにあると確信しています。
ただし、とんちんかんな使い方は避けなければならないことは、言わずもがなだと思います。
通常の場でも「課題発見」の意識付けを徹底する
みなさんのチームの会議やミーティングはどのような感じで進んでいますか?
メンバーの報告を受ける、会社の決定事項を伝える、今後の予定を決める、業務の進捗を確認する、というようなところでしょうか。
会議やミーティングにはいくつかの機能があります。
・物事を決めるという機能
・確認するという機能
・伝達するという機能
・情報交換するという機能
この中で、「確認」と「伝達」の機能で終始するというケースがかなり多いのが現状です。決定は他の場所で行われたり、情報交換は全くされなかったりしているわけですが、それでは、メンバーの思考が活性化することはありませんからメンバーの課題発見力を鍛える場にはなっていません。
課題発見に対する意識を高めるためには、実は会議やミーティングの場は極めて重要な場なのです。いろいろな情報が集まり、そこにある本質を探ろうとする場や、方針を明確に決めなければいけないという場だからこそメンバーの思考は活性化するのです。
リーダーは、会議やミーティングの場を、よりメンバーの思考が活性化するように運営しなければいけません。特に、「課題発見」意識を定着させるためには、「情報交換」という機能をフルに活用する必要があります。

リーダーが心がけたい問いかけ
会議やミーティングで、情報交換の場面を定例にすることも大切ですが、それが形式的なものにならないようにするためには、リーダーの問いかけが大事です。リーダーは次の問いかけを心がけてください。
・もう少し詳しく掘り下げて話して
・その時、どう思った?
・その時、何が起こっていた?
・他の人は今の話をどう思う
・それだけ?
情報交換を単なる報告に終わらせるのではなく、これらの問いかけによって当人の「感想」や「気づき」を引き出させるために行います。そこから、どこかに課題は埋まってないかという意識を持たせるのです。
ポイントは、ひとつの発表情報の周辺を「もう少し・・・」「もっと・・・」「他に・・・」という言葉を添えながら、根掘り葉掘り詳細に掘り下げるということです。
そうしているうちに、メンバーも通り一遍の報告ではいけないということを知り、日頃から情報を得る目を養うようになるのです。
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井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年7月23日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]