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第9回 「意識」は行動のエネルギー、「思考」は行動の質
井上オフィス代表 井上 健一郎

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内的生産性を高めるための話を続けていますが、今回から「思考」について触れていきます。
広い意味では意識も思考の中の一要素と言えますが、ここでは分かりやすくするために論理的に展開する力という意味で「思考」という言葉を使います。意識は心と密接な関係があり、思考は頭と密接な関係があるものと考えていただければ分かりやすいでしょうか。
物事の因果関係を捉える力がある、いろいろな事象から共通する概念を導き出せる、気づく力ひらめく力が強い、そういう人が「思考」の力の強い人ということになります。

内的生産性で見る4つのタイプ
「意識」と「思考」という内的生産性は、実際のアウトプットとなる外的生産性に強い影響を与えます。具体的には、「意識」が行動を起こすエネルギーとなり、「思考」によって「行動」の質が決まるのです。
実は、「意識」の高さと「思考」の強さの状態でメンバーを4つのタイプに分けることができます。意識の高さ、低さを縦軸に、思考の強さ、弱さを横軸に取った次のマトリクスを見てください。

・意識も高く、思考も強い枠に入るのが「デキる人財」です。
・意識は高いが、思考に弱さがある枠に「優秀な実行者」が入ります。
・思考に強さがあるが、意識の低い枠に入るメンバーは、何らかの「管理の必要なメンバー」です。
・そして、思考も弱く、意識も低い枠に入るのは「困ったメンバー」です。
もちろんリーダーは、できるだけ多くの人材を「デキる人財」にするために、意識面も思考面も育成するのですが、思考力は個々のメンバーが本来もっている潜在能力(ポテンシャル)によって発揮の程度が変わりますので、全員に思考力の高さを求めることはできないことを知っていなければいけません。むしろ、リーダーは思考力の強いメンバーを有効活用してチームの生産性を高めることを考えるべきでしょう。
まず、全員の意識面をしっかり定着させることが大事で、その上に思考力が高いメンバーの有効活用を考えるということになりますが、少なくとも全員意識面をしっかりできれば、「管理の必要なメンバー」や「困ったメンバー」に悩むことはなくなります。次の図のような状態が作れるのです。

「デキる人財」と「優秀な実行者」だけでチームを構成できればそれに越したことはありませんが、現実的にはどうしても意識の低いメンバーが現れる可能性を否定できませんから、リーダーは、意識面の低いメンバーに対する向き合い方も覚えておく必要があります。
そこで、今回は「管理の必要なメンバー」と「困ったメンバー」への対応について述べてみたいと思います。その次に「優秀な実行者」について述べます。
「デキる人財」を育てるための思考力の育成方法とその活用方法については、次回以降で述べさせていただきます。
「管理の必要な社員」の管理方法
意識が低い社員は、たとえ思考力が強くても仕事において全面的に信頼をおくのは危険です。なぜならば、意識が低いメンバーの場合、会社やチームのため、顧客のためではなく、自己都合で動く、人に依存するということが起きやすいからです。
そのようなメンバーに、会社の命運をかけた開発や最も重要な顧客を任せることはできません。
この領域にいるメンバーへの対し方として大切なことは、仕事への取組みいわゆる行動の管理です。この連載の冒頭に行動管理をすることだけがリーダーの役割ではないと述べましたが、このタイプのメンバーには必要になります。
思考力があるので、時折光る発言をすることがありますが、意識が低いため「言うけれどもやらない」もしくは、「やることもあるが、やらないこともある」など実行動が伴わないことが多いからです。
このようなメンバーを管理するための基本は、ひとりにさせないことです。常に上司・先輩と連携して動かなければいけない状態においたり、複数の人間で行わなければならない共同作業に組み入れるというような工夫が必要になります。
また、「いつまでに」「何を」やるべきかがはっきりしている仕事を担当させるのも管理をしやすくする方法のひとつになります。いわゆるルーティン化された仕事であれば、確実に実行しているかどうかを管理しやすくなります。
他には、そのメンバーの業務の遂行状況が全体に影響を与えていることが分かりやすい場合も管理がしやすくなります。後工程への影響が分かりやすい工場のラインなどはひとつの典型的な例になるでしょう。
「困ったメンバー」のダメージコントロール
自分からは動かない、いくら言っても理解しない、仕事の成果が低い、周りへ悪い影響が与えるというようなマイナス面がはっきりと表出するこのタイプは、「やらせれば、ちゃんとやる」ということが保証されません。「やらせても、できない」仕事が多いため、リーダーにとってストレスの素となっていることがしばしばです。
このタイプのメンバーは残念ながら、やらせてはいけない仕事があることを理解しておく必要があります。
彼らができる仕事は、やり方が既に決まっていてかつそのやり方が複雑でないものに限ります。社員をアルバイトと同等に扱うことにためらう方も多いと思いますが、「困ったメンバー」の扱い方については、アルバイトを扱うときと同じような意識とスタンスが必要です。
ダメージが起こりにくい、万が一起きても決定的なダメージにならない対応可能な仕事が彼らに担当させられる仕事です。仕事というより作業に近いものになるでしょう。
残念なことではありますが、「困ったメンバー」に必要なのは、ダメージが起こらないように担当業務をコントロールすることです。
このように見てみると、やはり意識面の育成がどれだけ大切かということを改めて感じざるを得ません。
「優秀な実行者」の育て方
この人たちの強みは意識の高さですから、確実な成果をめざし真面目に自分の役割を果たすために努力してくれます。決められたことを確実に実践するための「実行者」としての価値は非常に高いと言えます。しかし、思考の面で若干の弱さがあることから、問題解決や新しい価値創造という場面で先頭に立てるタイプとは言えません。
軍隊で言えば後方で全体を俯瞰し作戦を考える参謀タイプではなく、前線で突破口を開き活躍するタイプの人たちです。
その強みを活かすためには、戦うための武器を持たせることが大事です。営業の場合で言えば、営業ツール、キャンペーンや販促などの具体的施策、製造の場合は工程計画などの支援がそれにあたります。また、マニュアルの整備なども前線で戦う人にとって武器となり得ます。
そして、このタイプのメンバーには、仕事をするときに必ず「何を」「どこまで」やらなければいけないのかということについて考える習慣を身につけさせることが大事です。いわゆるゴール設定をする癖をつけさせるということです。
仕事の組み立て、段取りなどを常に意識させることで、確実に業務遂行能力があがります。方向性が決まれば強みを発揮するこのタイプのメンバーを上手に導くことができれば、チームの実行力があがります。
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井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年8月6日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]