ピンチをチャンスに変えられる「お守り」言葉って?

いいこともあれば、悪いこともある。そう分かってはいても、ミスやトラブル、誤解や中傷など、不本意な状況の中にいると、「ずっと、このままだ」「いいことなど起こらない」と投げやりな気持ちになるものです。
不思議なもので、そうした思いが募ると、本当に悪い状況が続いてしまいます。これは心と行動がつながっているためです。
後ろ向きの言葉によって、行動までも後ろ向きになる。私も何度も経験してきました。グチる、不満を吐き出す、泣きごとを言う。声に出して、自分の窮状を訴えることもしましたが、一瞬気持ちは晴れても、状況は悪くなる一方でした。なぜでしょうか?
こうした時、つい口にしてしまう、「もうダメ」「終わり」「どうせうまくいくはずがない」などは、ピンチを呼び込む根源になります。
人に話して気が晴れるのは、言葉を吐き出す行為に爽快感を覚えるだけであって、心の中は何も変わりません。
現状を改め一歩踏み出すためには、「あなたらしいポジテイブな言葉」を持つことをお勧めします。それらをピンチの時には自分に言い聞かせ、支えにしましょう。
「あなたらしいポジテイブな言葉」とは、どういうものでしょうか?
ポジテイブな言葉というと、名言、格言の類からよく言われる「大丈夫」「頑張ろう!」までいろいろ考えられますね。
そうしたものでも、力になるとは思いますが、周囲の方からいただいた「何気ない一言」のほうが、はるかに勇気がわくはずです。
あなたの気持ちに寄り添い声をかけてくれた、そうした言葉には心を動かすエネルギーがあるからです。
人は納得して行動しないことには、前進できません。倒産の危機、家族の崩壊、社員の造反、病や体の変調、精神不安や信じていた人の裏切り……。どれも自分がまいたタネだとはいっても、次々に起こる困難を前に私自身投げやりになったことは数知れません。
それでも乗り越えられたのは、「私らしいポジテイブな言葉」で自分を鼓舞したから。それをお守りのようにして、行動してきたからです。
励ましの意味で口にする「大丈夫」ですが、このままですと、何を訴えたいのかが見えてきません。あなたの窮状を知った方から、「大丈夫!」と言われても、ぴんときませんね。
「私のことを分かって言っているの?」「おためごかしは言わないでくれ!」
せっかくの励ましの言葉も、いま一つ響いてこない場合もあります。
それでは、「あなたならば大丈夫」「あなただから大丈夫」と、言われたらどうでしょうか?
「私のことを理解してくれているのだ」「気遣ってくれている」
先の例よりは心に響き、受け止めることができるでしょう。
さらに同じ言葉を自分に語りかけると、
「あなたならば大丈夫!」→ ずっと努力してきたのだから
「あなただから大丈夫!」→ 努力してきたのだから、必ず成果は出る
冷静に自己分析をして、大丈夫である「根拠」を見つけた時には、「絶対に大丈夫」という確信にまで、高まっていきます。
「大丈夫」だけでは行動できなかったのに、対象や根拠が明確になり納得できれば、確信し行動できる自分に変わっています。これが、言葉の力です。
ここで私に力を与えてくれる、お守りのようにしている言葉をご紹介しましょう。
「チャンスはピンチの顔をしてやってくる」です。
チャンスとピンチは常に二人三脚。ピンチだと思える事態には、チャンスの芽が必ず隠れているのです。
かつて、売り出したばかりの商品に、クレームが相次いだことがありました。お客様からの抗議やクレームの嵐の前に、社員は電話に出ることを避けます。お得意様には怒鳴られ私自身、謝ることが仕事になってしまって、落ち込みました。
やるべきことは、クレームの処理だけではなく、これを教訓にして間違いない商品を提供することなのに、情けない状況でした。
その時尊敬する方から、「ピンチを生かせる人が本物の経営者だ」と、声をかけていただきました。
「そうでなくては、いけないんだよね」。この言葉で事態を冷静に見つめ、クレーム(ピンチ)の中にあった「儲けのタネ」(チャンス)に、気づくことができました。のちに、ヒット商品が生まれるきっかけとなったのです。
そして「ピンチを生かせる人が本物の経営者だ」は、「チャンスはピンチの顔をしてやってくる」という、私らしい言葉に生まれ変わり、以降、ピンチに出合うたびに、私を救う「お守り」の言葉になりました。
部下や仕事仲間、友人、知人が悩みを抱えている。落ち込んでいるのが手にとるように分る時、無関心を装うのも思いやりかもしれませんが、仕事に差しさわりがあるようならば、黙って見過ごすこともできません。
そういう時、私は「○○さん、何かあったら声をかけてね」とさりげなく伝えた後に、「努力する人には悩みはつきものだから」と、独りごとのように話します。
仕事に限らず、何事も一生懸命に打ち込む人だから。あなたは目的意識が高いから、思い悩むのだ。そのことを分って欲しい。いつもあなたを見守っているから。そんな思いから伝えるのです。
「どうしたの? 元気ないね」
「落ち込んでいるなんて、○○さんらしくないなあ」
「頑張ろうよ!(肩を叩く)」
励ますつもりで伝えたこともありましたが、険悪な雰囲気が漂ってしまったり、相手の心を閉ざしたり。余計なお世話だったのでしょう。
しかし、「努力する人には悩みはつきものだから」と伝えると、相手の顔色が変わります。吹っ切れた感が見えてくるのです。
弱っている時には、ポジテイブ過ぎる言葉や通り一遍の励ましの言葉は、心に響いてきません。
その人らしいポジテイブで、相手の心に寄り添った言葉でないと、納得はできないのです。自分を鼓舞するだけでなく、部下や周囲を励まし仕事を円滑に進めるためにも、選び抜いた言葉を使う。
ひと言であっても、手を抜かずコミュニュケーショをとる。人間関係を丸く柔らかくする言葉の力を知り、生かしてくださいね。
[2011年11月9日公開の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

1958年東京生まれ。健康プラザコーワ、ドクターユキオフィス代表取締役。理学博士、健康医科学博士、MBA、行政書士、宅地建物取引士、栄養士。33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ会社経営に携わる。次々にヒット商品を開発し、独自のビジネス手法により通販業界で成功をおさめる。日本テレビ「マネーの虎」に出演。経営者、講演者、経営コンサルタントとして活動する傍ら、難関資格を取得した勉強法も注目される。ビジネス作家としても活躍。著作は50冊を超える。