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飲みに行く相手にあなたの価値は表れる
出世する人は人事評価を気にしない(7)
あなたの周りを見渡してみて、その交友関係を想像してみよう。
さらにこの俗説を外部に向けると、はっきりしたことがわかる。
取引先の、役職が下の人たちと親しく付き合っている課長と、取引先の社長や役員たちと親しく付き合っている課長のどちらがその後出世するだろうか?
俗説を聞いて頷く人もいれば、否定する人もいる。感情的に否定したくなるのは、そこに「友人たち」という定義があるからだ。
友人を、年収やその前提となる社会的な成功度合いで測ることはいかにも卑しい話だ。しかし友人ではなく、ビジネス上の関係に限定してみたとき、この俗説に信憑性があることがわかる。ビジネスでつながっている人の年収の平均が自分の年収になる、と考えてみれば納得性が高い。
◆知人の平均年収は、あなたが所属する"チーム"の価値である
前回の人的資本の棚卸し表をあらためて見直してみよう。そして、最近のつながりの中で、ビジネスに限定して、それらの人たちの年収を推測で記入してみよう。
もしその平均値が今のあなたの年収よりも多ければ、とりあえずは安心だ。
しかしもし、今の年収よりも低い数値になってしまったら、あせるべきだろう。現状のビジネスでの交友関係は、あなたにとってマイナスの影響を及ぼす可能性が高いからだ。
それは、つきあっている人たちのレベルが低いということが問題なのではない。その人たちとのつきあいに甘んじていて、部下に権限移譲をしていなかったり、上位者の視線を持てていないあなたの今の状況がまずい、ということだ。
価値はつながりから生まれる。そしてつながりには二種類がある。
第一が、限られたメンバーの中での「強いつながり」。
第二に、開かれた関係での「弱いつながり」だ。
第一の強いつながりは、価値の源泉だ。
プロスポーツでたとえるなら、公式の一軍に選ばれていることが強いつながりができている状態だ。
プロの一軍として見たとき、そこにレベルの違う人が存在していることができるだろうか。フォワードは一流だが、ミッドフィールダーやゴールキーパーが二流であるサッカーチームが勝利することは難しい。
野球であれば、ピッチャーだけが一流でもなんとかなることはある、と思うかもしれない。しかしそれが可能なのはアマチュアである高校野球までだ。プロ野球になったら、とても勝つことはできない。
年収の俗説は、あなたが持っている強いつながりの価値をあらわしている。
バーチャルなあなたのチームが、どんな価値を生み出せるのかという基準が年収の平均値と考えてもいいだろう。
◆部下を引き連れて飲むよりも、話が合わない年上に混ざり込む
もしあなたが「あなたの価値=年収を高めたい」のであれば、ビジネスの付き合いで、一人ひとりのランクを高めていく必要がある。それは関係性を切り捨てるということではなく、あるべきつながりになるように、関係性を再構築するということだ。
例えば、取引先の担当者とばかり話をしているのであれば、その担当者との交渉は自分の部下に任せてしまおう。そうして、担当者の上司が来るときにだけ顔を出すようにしよう。少なくとも、その上司があなたに会うべき理由をつくっていくように行動した方がよい。
社内会議であれば、ランクが下の人たちの会議には権限移譲をしていこう。あなたが出席する際には意思決定のみとし、会議時間の短縮を図る。そうして余った時間を使い、上司たちが集まる会議に積極的に出席していこう。
部下を引き連れて飲みに行くのではなく、部下たちを早めに帰らせて、彼ら同士が飲みに行ける機会をつくろう。そしてあなたは、気が向かないかもしれないが、5歳、10歳年上の、話が合わない上司たちに混ざり込んでいくべきだ。
強くつながっている相手のレベルを引き上げていくことは、自分自身にとっての成長のきっかけにもなる。そもそもあなた自身が、相手から「あの人とつながりたい」と思わせる存在でなくてはならないからだ。
だからこそ、強いつながりをつくろうとする取り組みには大きな意味がある。
あなたの価値は、あなたが持つ人的資本によって決まる。そして、人的資本はあなたが持つ強いつながりによって、さらに増大する。高いレベルの強いつながりを一つ増やすごとに、人的資本はより大きくなる。そうすれば、より高いレベルのつながりを獲得しやすくなる。
この仕組みは、貧乏な人がお金持ちになることは難しいが、お金持ちはさらにお金持ちになりやすい、ということとよく似ている。(ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク 世界を知るための新科学的思考法』阪急コミュニケーションズ、2004)
お金がお金を生むように、強いつながりはさらなる強いつながりを生み出していく。
[日経Bizアカデミー2015年2月3日付]
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セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。