カーネギーから幸之助、宗一郎に通じる成功の条件
川村真二著「58の物語で学ぶ リーダーの教科書」


「58の物語で学ぶ リーダーの教科書」の著者、川村真二さん
経営教育コンサルタントの川村さんは1948年生まれ。青山学院大学経済学部を卒業後、日本能率協会などを経て独立、リーダー・ビジネス研究所の代表として、マネジメントやリーダーシップなどをテーマにした研修や講演などを手がけています。
成功の秘訣はPDCAを回すこと
入社して3年もすると、すでに部下を持つ人もいるでしょう。本書で著者は「誰もが多少の不安を感じながら、そして試行錯誤しながら、しだいにすぐれたリーダーになっていきます」と説きます。「経営の神様」と言われた松下幸之助も同じでした。
「私は体験することが大事だと思います。体験というのは何も特別なことを経験することではありません。誰もが体験できます。どうすればよいのかといえば、一日一日あったことをよくかみしめてみることです。今日は何がうまくいったのか、なぜうまくいったのか。また、今日は何がうまくいかなかったのか、なぜうまくいかなかったのか、よくかみしめてみることです。このことを3年も続ければ誰もが立派な経験をしたことになります」
(77ページ 第2章 PDCA能力をつける)
ホンダの創業者、本田宗一郎にも「成功は反省と努力」という言葉があります。つまり、松下幸之助にとっても本田宗一郎にとっても、成功は「努力」のみではなく「反省」と一体になっているのです。著者は「努力とは、PDCA(計画、実行、評価、改善)を何回も目標達成するまでくじけずに回し続けること」と述べていますが、日々の小さな反省が大きな気づきに繋がるのかもしれません。
仕事の15%は自分の好きなことに使う
リーダーシップは上司のものだけではありません。リーダーを補佐するフォロワーシップも広い意味でのリーダーシップです。上司が判断ミスをしたときは命令に逆らっても、自分の信念にもとづき、それを補正、修正して事業を発展させる。それこそみごとな部下といえます。
(238ページ 第6章 上司を補佐する)
「鉄鋼王」と呼ばれたアンドリュー・カーネギーも若いころ、日ごろから上司の仕事を研究していたため、上司不在中の鉄道事故という緊急事態でも、うまく代理を務めることができたといいます。常に「自分がその立場だったらどうするか?」という視点で見てみると、突然のチャンスを掴むことができるのかもしれません。
肥溜めの入れ歯を、笑ってくわえる
本田(宗一郎)は他愛の精神をたっぷり持っている人でした。外人バイヤーが肥溜めに落とした入れ歯を、自ら裸になってそこに降りて拾い上げ、消毒して、さらに、それを、さあ、きれいですよと自ら口にくわえて、笑わせてから、渡すとか、実に人間力に富んだ、心のきれいな、魅力的な人でした。
(254ページ 第6章 上司を補佐する)
「もし世の中に成功の秘訣があるとすれば、それは常に相手の立場に立って考えることの中にある」と自動車王のヘンリー・フォードは言ったといいます。きっと、この外国人バイヤーは、本田の行動に仰天し、感動したはずです。その後のことは記されていませんが、長く互いに良好な関係だったのではないでしょうか。
常に「他愛」の精神を持つ。「成功」はリーダーだけのものとせず、チームの成功と捉える。例えば、商品であれば「企画から消費者に届くまでの全ての工程に関わった人に感謝する」といったようなことかもしれません。こうした「心くばり」が、本書に登場する多くのリーダーの話に垣間見えたような気がします。
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本は苦労して作った分だけ売れる──。この本をきっかけにそう思うようになりました。この本が文庫になる前の単行本のときの話です。当時、私は営業部から編集部に異動したばかりで、本作りの素人。見本が出来上がってきたら間違いだらけで、半年間の刊行延期に……。著者の川村真二先生は、リーダー研究の大家ですが、「時間もあるし、どうせ書き直すなら、二人でリーダーたちにもっと詳しい話を取材してみないか」と前向きなお許しの言葉をいただきました。暑い夏の日々でしたが、普段は会えないような方々に取材し、やり終えた後、2人でおいしいビールを飲んだのを、今でも懐かしく思い出します。リーダーの本でもこれだけしっかり取材して作った本はそうはなく、それが売れている理由だと自負しています。
(雨宮百子)