「説明上手」な人が守っている5つのポイントとは?

説明とは、そのことを知らない人や分からない人に、理解してもらうために行うものです。ですから分からない部分を残したら、説明とはいえません。
説明を終えて、相手がけげんそうな顔をしていたら、「なぜ、こんな簡単なことが理解できないのだろう?」と相手の理解力を疑う前に、自分の説明力を疑った方がいいと思います。
以前、ある芸術家にお会いした時、「作品のアイデアは、どのように生まれるのですか?」と、素朴な疑問をぶつけてみました。
すると「ふわ~と浮かんだひらめきがするする降りてきて、バンバン響いたものを作品にする」と身振り手振りで、熱く語ってくれたのですが、
「ふわ~と浮かぶ時ってどんな感じなのかしら?」
「するするとは、どういうことかしら?」
「バンバン響くものとは、いったい何だろう?」
確かに芸術家は、感性勝負の仕事でしょう。
「ふわ~と、するする、バンバン……」、そういうものなのかもしれませんが、具体的な説明がないのですから、私は首をひねるばかりでした。
子ども、大人、お年寄り、その道のプロ、初心者、そのことに興味を覚えているかどうか……。説明する時は、相手に合わせた言葉を使うのが基本です。
説明上手な人は、難しい言葉や考え方も、相手の概念に置き換えるのがうまいものです。相手を下に見ているのではなく、それなりの表現で工夫して伝えています。それは相手が理解できにくそうなことは何かを、あらかじめ想像してから説明しているからです。
相手に合わせた言葉や表現方法で分かりやすく伝えるのは、説明の基本ですが、かといって過剰な説明をしたらどうなるでしょう?
親切で真面目な人や、教え好きな人、サービス精神旺盛な人は、つい余計な説明をしがちです。
実際、相手が求めている以上に説明したら間違いなく煙たがれます。「くどい」「知識を振りかざす」「空気を読まない」と受け取られ、「二度とこの人には質問しない」と親切心があだになることも、考えられます。
かつて私もこうした失敗をしました。
「臼井さんの著作のうちで、お薦めはどの本ですか?」とパーティーの席で、質問してきた方がいました。その方とは初対面でしたが、著書に関心を寄せてくれたことがうれしくて、
「○○でしょうか? いいや△△がいいかしら? ●●もお薦めですし、ビジネス書だったらあれで、実用書ならばこれで、最新刊がいいかも。この項目は苦労したものですから……」
と一生懸命考えながら、答えました。
正直この類の質問に答えるのは、難しいのですがていねいに伝えたつもりです。しかし、私が話すほどに相手は、よそよそしい態度になっていきました。
もうお分かりですね。
相手は、おそらくあいさつ代わり、ちょっとした愛想のつもりで質問したのでしょう。
私はそうとは気づかず、うれしくて余計なことまで伝えてしまったのです。軽い気持ちで、「○○がお薦めです」と答えればいいようなものですが、著書は私の分身ですし、どの本にも思い入れがあって簡単に答えることなどできません。
それにお薦めと言うからには、その根拠も伝えなければいけないと考えたのです。このように思い入れのあることや、専門分野について質問をされると、日ごろは無口な人でも「教え好きのしゃべり好き」に変身する可能性が大きい。気づかいないうちに煙たがれている存在になっているかもしれません。
この件以来、
*余計なことは言わない
*余計なことまで言うから分からなくなる
*余計なことまで言うと嫌われる
と肝に銘じています。
私が経営する会社では、「通信販売」で扱う商品を製造・販売しています。その関係で俗に、「カリスマ販売員」と言われる方々に、お会いする機会があります。
彼らがテレビ通販で説明した商品は、間違いなくヒット。問い合わせが殺到して電話回線がパンクしたとか、熱烈なおっかけがついているとか。話題に事欠かない方ばかりです。
彼らをはじめ販売のプロと言われる人たちの説明には、共通する特徴があります。それは、「アピールポイントを絞りこんで説明する」ということ。
アピールしたいことが山ほどあったとしても、説明はほどほどに。あれやこれやと話をすればするほど、それぞれの特徴が薄れ、印象に残らなくなるからです。
例えば、化粧品を説明する場合、
*特許成分を配合している
*1本で化粧水、乳液、下地クリーム、ファンデーション、日焼け止めの5役をする
*無添加
*無香料
*お客様リピート率が90%
*○○ランキング1位
*しっとり感が持続する
のようにたくさんセールスポイントがあったとしても、多くても5つ程度に絞ります。
従来の化粧品が少し変わったというような特徴はさらっと触れるか、伝えないこともあります。メリハリをつけた説明をしないと、お客様の心はつかめません。販売にも結びつかないのです。

最も特徴的なセールスポイントは、何度も繰り返し説明します。しつこいほどに連呼するのです。また一方的に説明するだけでなく、画面の向こうにいるお客様一人ひとりに、
「奥様、いいですか? ここが大切なところです」
「すごいでしょう? お嬢さん、いいでしょう」
という感じで語りかけます。こんなふうに説明されたら思わずうなずいてしまいますね。財布の紐も緩くなるでしょう。
説明上手な人は、
*相手はどういう人か?(誰に)
*どんなことを説明するのか?(何を)
*どこまで伝えるべきか?(範囲)
*説明の目的は何か?(何のために)
*どのように説明するか?(手順)
などを常に意識しています。
この5つを押さえておくと過剰な説明になることもなく、反対に肝心なところが抜けるというミスも防げます。また、話の寄り道や脱線、時間がかかって相手を退屈させるなどおしゃべり好きが犯しやすい失敗もなくなります。
説明力に磨きをかけたい方、ぜひ参考にしてくださいね。
[2012年9月14日公開の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

1958年東京生まれ。健康プラザコーワ、ドクターユキオフィス代表取締役。理学博士、健康医科学博士、MBA、行政書士、宅地建物取引士、栄養士。33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ会社経営に携わる。次々にヒット商品を開発し、独自のビジネス手法により通販業界で成功をおさめる。日本テレビ「マネーの虎」に出演。経営者、講演者、経営コンサルタントとして活動する傍ら、難関資格を取得した勉強法も注目される。ビジネス作家としても活躍。著作は50冊を超える。