「とんがったことを」富士フイルム、76歳の変革者
富士フイルムHD会長兼CEO 古森重隆氏(下)

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――今の日本の経営者などリーダーを見てどう思いますか
「最近、日本のリーダーは小粒だ。将棋でいえば王将、飛車角金銀とかそういう特徴ある大きなコマがいない。歩が多いよ。粒ぞろいといえば粒ぞろいだけれど。若い人たちはみんな礼儀正しいいい子だ。だが問題解決をしろというと、できないかもしれない。官僚的な組織の中で、そういう人じゃないと役に立たないのかもしれないが、今激動の世の中で経営者のようなクリエーティブな仕事をやらなければならないとすれば、そういう人間じゃダメだ」
――クリエーティブなリーダーを育てるためにやっていることはありますか
「今はどこもやっているが、『経営塾』という勉強会を我が社も開いている。課長、部長などそれぞれの段階から選抜して、参加させている。役に立っているのか分からないが、こちらから見ていると、実力がわかるな。この人のレベルは今このあたり、この人はここまでやらせられる、という風にね」
――具体的にはどういう人材育成をやっているんですか

富士フイルムHD会長兼CEO 古森重隆氏
「1回に20人くらいかな、選抜して、半年間、月に1回くらい講座を開いている。外部の人に頼む部分もあるが、会長講話、社長講話というのもやる。部長クラスで必ず言うのは、『部長まで伸びてきたが、ここから伸びない人が多いぞ』ということだ。これには色々と原因がある。原因の一つ目は40歳過ぎてから50歳の前半くらいに心も体も疲れて、『もうどうでもいいや』って思うこと。もう一つは今まで以上に大きな仕事をすると、それに伴う大きな責任がかかる。その訓練をつんでいない。だから大局観や歴史観がないということ。この2つを踏まえて、しっかりしろと伝えている」
――大局観とか歴史観を徹底的に鍛えるんですか
「徹底的にかは分からないが、その段階でそういうことを言ってくれる上司がいて、『ぼやぼやするな』『今のままじゃだめだぞ』『もっと、とんがったことをやれ』と発破をかけると一つの刺激にはなるようだ」
――人材育成で他に気をつけていることはありますか
「褒めるべきは褒める、悪いことはしかる、ということだな。2003年ごろから構造改革をやってきたが、最初の7~8年は『なぜこういうことが自覚できないのか。俺ならこうやる』っていうもどかしさや悔しさとの戦いだった。だけど、いつの間にか環境に鍛えられて、伸びてきた。厳しい事業環境や大きな業態変化の中で、社員が自分を磨かざるを得なかったということだ。最近はついてきていると思う」
――後継者育成についてですが、次のCEOの条件はありますか
「もちろん、力の備わった人だ。それを見極めている。はっきり言えば、もう5年に1人とか10年に1人の、万人が『あの人ならば』っていう人がいなくなったと思っている。でも粒がそろってきた」
――外から連れてこようという考えはないんですか

「なかなか難しいだろうな」
――古森さんの習慣としている健康法などありますか
「健康は大事なことだ。大学時代、運動部で『運動選手はアウトプットを上げようとがんばっているが、大事なのはインプットだ』といわれた。何かといえば、栄養をバランス良くとることだと。『人生全体を考えるとき、30歳までにしっかり栄養を蓄積すれば後の人生を健康で生きられる』といわれた。たんぱく質とかビタミンとか栄養のバランスは30歳までだけじゃなくて、ずっとちゃんと取るようにしている。弱点は酒を飲みすぎることぐらいかな」
――10年後、20年後、富士フイルムはどんな会社になるんでしょうか
「今5つの事業分野を中心にやっている。我々は技術力を、基盤となる力を磨いてたくわえながら、先端的なナンバー1もしくはオンリーワン製品を出してきた。こういうのが日本企業の生きる道だ。先端の製品を出し続けていく、技術オリエンテッドな会社。ただ、技術力を誇示して物を作るのではなく、世の中にとって価値があるもの、社会に貢献できる製品を出して、社会をよりよくして、そこから我々は利益を得て、将来をさらによくするために投資する。そういう会社でありたいし、今もそういう会社だと思っている」
1963年東京大学経済学部卒、富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)入社、96年フジフイルムヨーロッパ社長、2000年富士写真フイルム社長、03年富士写真フイルム社長兼CEO、12年富士フイルムホールディングス会長兼CEO。76歳
(代慶達也 小河愛実)
前回掲載の「 『本業消失』越えた攻めのアメフト経営」では、学生時代に培った「攻めの精神」について聞きました。