東大講義を書籍化、戦略入門書が予想外の売れ行き
八重洲ブックセンター本店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今週は定点観測している八重洲ブックセンター本店を訪れた。6月に訪れたときは就活シーズンということもあり、読み物としても楽しめる企業研究本が若手の顧客中心に売れていたが、今回も若手社員向けに編集された経営戦略の入門書が予想外の売れ行きを示しているという。
理系学生向けの経営入門
その本は出口知史『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)。同店では経営論や戦略思考の本はもともとよく売れるし、「東大生」というキーワードも飛びつく読者が多い。それでも「ソフトカバーだし、版元もビジネス書御三家ではないのでノーマークだった」と2階フロア長の木内恒人さんは明かす。それが入荷2週目でランキング6位に食い込んできた。
著者の出口氏は企業再生や企業変革の現場を数々踏んできた実践的なコンサルタント。その経験を背景に東大工学部社会基盤学科で「技術を生かす経営とは~企業再生の現場から」という講義を2007年から毎年1回、9年にわたり続けているという。その講義内容を書籍化したという触れ込みだ。実際に企業が判断や行動を誤るのはなぜか。そこを様々な実例に即して考察した上で、技術にかかわる経営戦略や戦術をひと通り解説している。大学生や若手ビジネスマンを読者として想定しているだけに、わかりやすい書きぶりで、漫画調のイラストなども入っていて読みやすいつくりだ。
『失敗の研究』に強い反応
木内さんはもう1冊、初速に勢いを感じる本として金田信一郎『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』(日本経済新聞出版社)を紹介してくれた。ランキングでは8位に入っている。予備校の勝ち組から転落した代々木ゼミナール、不敗のビジネスモデルが暗転したマクドナルド、オンリーワンを生かし切れなかった東洋ゴムなどを取り上げ、なぜ、巨大組織は行き詰まるのかを追究した内容。自ら日経電子版のコラム「コンフィデンシャル」で考察した事例を基に、編集委員が失敗のメカニズムに迫る。「失敗とか崩壊といったタイトルも反応が出やすい」と木内さん。ビジネス書売り場の2階だけでなく、近く1階でも大きく目立つ展示にしていっそうの販促をかける。
それでは、先週のベスト5を見ていこう。
大きな流れは6月を引き継いでいる。6月のとき3位、4位だった『捨てられる銀行』『みんなが知らない超優良企業』がそれぞれ2位と5位。1位の実務書、3位の転職ガイドはそれぞれ著者関係のまとめ買いがあり、4位の経営書はこの週に著者の講演会イベントを同店で開いたため、実質的なワンツーは4週前にも顔を出した2冊ということになる。『捨てられる銀行』は3カ月続けてベスト5入りし、ロングセラーぶりが際立つ。
(水柿武志)