「CEOが後継者を決めてはダメだ」日産ゴーン氏
カルロス・ゴーン日産社長兼CEOのリーダー論(上)

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■リーダーは役職ではない
――ゴーンさんは「外部からきたから日産を改革できた」といわれることがあります。しかし、実際は文化を知らなかったり、ネットワークがなかったり、「アウトサイダー」はマイナス面の方が出やすいのではないでしょうか。そうした悩みをどのように克服したのですか。
「ローカルのネットワークがなく、固有の文化がわからない、そもそも会社に関する知見がない――。それはマイナス面の方が大きいでしょう。外国人であれば、日本人にとって当たり前であることがわからないからです。しかし、私の場合、アウトサイダーであることは価値になりました。日産を改革するには、外部の人間であることが必要だったのです。中にいた人が以前の状況に引きずられて気づかない課題も、外から見るとはっきりとわかることがある。アウトサイダーであることには、プラスとマイナスの両面があるのです」

日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)
――ゴーンさんが考えるリーダーの資質とは何でしょうか。自分に欠けているところ、足りないと思うところがあればそれも教えてください。
「自分でいくら『私はリーダーだ』といっても意味がありません。周りに『あなたがリーダーだ』といわれなければならないのです。本人が決めることではありません。役員や幹部に指名されたとしてもリーダーにはなれません。リーダーシップとは主観的なもので、人との『心の通いあい』で生まれます。『この人には魅力がある、ひきつけられる』というような思いがあることです。そして本当のリーダーになれるかどうかは、どれだけの結果や実績を出せるかにかかっています。厳しい状況の下で成功すれば、周りの人は認めてくれます」
「リーダーには予想外のことを実現できる力が求められます。『100を期待したのに200の結果を出した』、これがリーダーシップです。しかも1回だけの成功では認められません。何度も、どのような条件下でも一貫して結果を出し、常に期待を上回る結果を出すことがリーダーの条件なのです」
「役職がなくても周りから『この人はリーダーシップを発揮している』と認められている人がいるでしょう。リーダーシップの条件はみんな同じです。『人との関係性』『結果を出すこと』、この2つです。どこの国の人間だろうが、若かろうが年配だろうが関係ない。女性でも男性でもいい。人と人との関係が、その人をリーダーかどうか決めるのです」
30年以上会社にいても会社を知らない人間は多い

――日産のトップに就任した際、1000人ほどの社員と面談したと聞きました。ゴーンさんは「就任当時はわからなかったが、今は会社のことをよくわかっている」といいますが、日本の企業の多くは30年以上勤めたような人がリーダーになっても改革できないことが多い。それは『会社を知らない』ということなのでしょうか。
「会社に30年以上いるからといって会社をよく知っているわけではないでしょう。夫婦だって30年以上一緒にいても互いのことを知らないことが多い。互いのことを知るために苦労しなければならない。居心地のいい場所にいるだけでもダメです。帰属意識を持っているだけでは十分ではない」
「(自分が仏ルノーから送り込まれた)1999年当時の日産と、今の日産は全く違う会社です。会社は変わり続けているのですから、知る努力しなければ古びてしまう。うまくいかない理由はそこにあるのではないでしょうか」
「最も危険なのことは、新しいリーダーが登場する時です。自動車業界は多くの変革が起きるので、変わり目が重要なのです。そして会社が破綻する原因の一つには、間違ったリーダーを選んでしまったという場合もあるでしょう」
「日本の取締役会はトップと近いところにあるので、外からのプレッシャーを受ける可能性が低い。結果として、間違った候補を選ぶ可能性が高いのです。候補者を選ぶプロセスを大事にしなければなりません。今、役員報酬が話題になっています。『役員に多額のお金を出してどうするのか』といわれますが、適切な人であれば報酬をどれだけ与えてもいいのです」

「サッカーの試合と同じです。優秀な選手とは、弁が立つ人ではなく、ゴールを入れ続ける選手です。後になって結果からわかる。会社における人間の重要性がわかるでしょう。誰を選ぶかによって、結果は変わってくる」
悪い上司にも学べ
――ゴーンさんが学んだ人、影響を受けた人はいますか。
「私は上司から多くを学びました。キャリアを重ねる上で、決断力がなかったり、話に一貫性がなかったりする『悪いリーダー』に当ってしまったらどうしよう――と考える人もいるかもしれません。しかし、それも悪くはないのです。『悪いリーダーになってはいけない』と反面教師として学ぶことができるからです」
「優れた上司だけから学ぶわけではない。ですから、私は様々な人たちから学んできました。悪い例もいい例も見てきた。いい例からはインスピレーションをもらい、悪い例からはやってはいけないことを学べます」
「経営者も多く見てきましたが、『この人の影響を受けた』とすぐに名前が出てこないのは、自分のやってきたことに前例がなかったからです。『(影響を受けたのは米ゼネラル・エレクトリックの)ジャック・ウェルチCEOだ』などといいたいところですが、彼は米国企業を経営する米国人です。(彼とは違い)私は異国の会社を経営することになりました。(日産とルノーの実施した)アライアンスも新しい取り組みでした。私にはロールモデルがなかったのです」
後継者を決めるのは取締役会

社内外の幹部候補生向けに開かれた「ゴーンスクール」(15日、横浜市内の日産グローバル本社)
――後継者を育成することも経営者の重要な仕事です。ゴーンさんはどのタイミングで次にバトンタッチするのでしょうか。
「CEOが後継者を決めてはいけません。CEOが後任の候補者として複数の人を推薦することはあるかもしれませんが、決めるのは取締役会です。トップは後継者が決まった後は退任しますが、取締役はその後も残るのですから」
「後継者は会社の将来にベストな人を選ぶべきです。CEOが自分の好きな人を選ぶのはおかしいでしょう。そういう点で日本のシステムは少しゆがんでいます。しかし私は日本のシステムでやっているわけではなく、ルノーと日産の経営者です。だいたい会社を辞める時に、CEOは会社の将来のことなんて考えていませんよ」
「CEOを辞める時は株主総会や取締役会の場で『もう続けるのは無理だ』といった時でしょう。経営のモチベーションがなくなったり、健康問題を抱えていたりなど、いろいろなケースがあります」
「業績が悪くて取締役会がトップに退任を促す時もあるでしょうし、株価が悪い時に株主が不満だというケースもあるでしょう。これらいずれかの時にトップが代わるのです。私たち日産は今、株主も大半がハッピーだし、取締役会も非常に協力的です。でも時期がきたら候補を考えなければなりません」
(松本千恵 代慶達也)
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