変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

トマ・ピケティは『21世紀の資本』で、資本収益率が常に経済成長率を上回っていたと説きます。それはつまり、働いて手に入れる所得よりも、資産が生み出す収益の方が多いということでもあります。よりわかりやすく言い換えるなら、給与の増え方よりも、利息とか配当とかの方が増えやすいということです。

だとすれば、私たちは給与として受け取った分から一定額を金融資産や不動産資産などに投資していけばよい、ということになります。多くのフィナンシャルプランナーが示すように、自分にもしものことがあっても稼ぎ続けてくれる存在があれば安心感も増します。

ピケティの分析に従うのなら、給与の増やし方を考えて出世競争を頑張るよりも、利回りの良い金融商品を探して投資する方がよい、ということになるのかもしれません。そうして金融資産や不動産資産を増やしてゆければ、お金のために働く必要性がどんどん減ってゆきます。やがて自由に使えるお金を持ちながら、自由な時間も手に入れられるようになるでしょう。

出世しなくてもお金を手に入れることはできますし、その方が効率的です(総額を増やすことはなかなか難しいのですが)。

では、プライベートを大事にしたいから出世したくない、という人たちは、資産を増やす活動に専念した方がよいのでしょうか。そもそも、出世することとプライベートの充実はなぜ相反しているのでしょう

まだ根強い「会社にとって使い勝手がよい」という出世条件

内閣府が男女共同参画社会を創造するための様々な改革を提言しています。最新の第四次男女共同参画基本計画を開いてみれば、「あらゆる分野における女性の活躍」「安全・安心な暮らしの実現」「男女共同参画社会の実現に向けた基盤の整備」などの項目で具体的な成果目標があげられています。

この中でも特に問題になるのが、「男性中心型労働慣行」の変革です。これは高度成長期にあたりまえだった働き方を指していますが、私たちの常識としても根付いてしまっています。例えば仕事が忙しければ残業しなくてはいけないし、支店の人手が足りなければ転勤しなければいけない、というようなことです。そういう、会社にとっての使い勝手の良さが重要視されていましたし、今なお出世していく要件として求められることが多いものです。

しかし注意しなくてはいけないのは、これらは決して世界の常識ではない、ということです。欧米だけではなく、アジア諸国でも、「急で悪いんだけれど今日、どうしても仕上げなければいけない資料があるからちょっと残業してほしい」という業務命令にほとんどの人は従ってくれません。転居を伴う転勤命令なんて出そうものなら訴訟問題になるでしょう。

会社側に配転命令権がある、という法律解釈自体が日本独自なものなのですが、これらは「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」がかつての日本で多かったためです。ややこしい書き方をしていますが要は、夫が働いて妻が家庭を守るという世帯のことです。しかし今やそういう夫婦世帯は全体の40%未満。会社にとって使い勝手のよい働き方を選ぼうにも、奥さんも働いていて家事や子育てや介護を夫婦で分担しなければいけないとすれば不可能です。急な残業を命じられたら子どもを迎えに行けないし、転勤したら単身赴任で生活が破たんするかもしれません。

そんな古い労働慣行はすこしずつ改善されようとはしていますが、改善されたらバラ色なのか、というとそうではありません。自分で働く時間を選べるようになる出世、という選択肢が今後増えると思われますが、自由を手に入れると同時に失わなければいけないものがあるのです。詳細は次回に。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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