大手町で注目 元日銀理事の金融政策論
紀伊国屋書店大手町ビル店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今週は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店に戻る。前回は金融関係が売れ筋の同店には珍しくマーケティング理論の本が注目を集めていたが、今回は先週店頭に並んだ金融政策を真正面から論じた新刊が出足好調だという。
元日銀理事が黒田バズーカを分析
その1冊はメーンの平台の真ん中付近に2列並んで展示されていた。早川英男『金融政策の「誤解」』(慶応義塾大学出版会)だ。著者の早川氏は元日銀理事。2000年代半ばに日銀の筆頭エコノミストとされる調査統計局長を6年にわたって務め、日銀きっての論客といわれた。現在も富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェローとして活躍する。
本書は同氏初の著書で、黒田バズーカ以降の日銀の政策展開について緻密な分析と論考を加えている。読みどころは、副題に「"壮大な実験"の成果と限界」とあるように、異次元緩和のもたらした成果をきちんと評価した上で、誤算だった部分にも踏み込んでいる点。最後はこの政策からの出口をどう探っていくかという展望も示している。やぼったさのない一般書らしい造本で、金融関係者なら誰もが気になる論客の著書、もっとも気になるテーマということもあいまって「出足から快調に売れている」とビジネス書を担当する広瀬哲太さんは話す。

版元別の陳列棚の目に入りやすいところに置かれている
もう一つ広瀬さんがよく売れていると注目している本が小笠原啓『東芝 粉飾の原点』(日経BP社)。内部情報と日経ビジネス取材班の徹底取材をもとに、なぜ、東芝が不正会計に手を染めることになったのか、その根本的な原因に斬り込む内容だ。
英エコノミストの欧州論が改めて脚光
ニュースに関連したテーマでは「英国の欧州連合(EU)離脱にからんで動き出した」のがロジャー・ブートル『欧州解体』(東洋経済新報社)。同店は前回6月の終わりに訪れたときにいち早く英国のEU離脱関連本コーナーを立ち上げていたが、その中でも一番の注目を集めているのがこの本だという。ブートル氏は英国の著名エコノミストで、英政府のブレーンを務めたこともある。ほぼ1年前に刊行された本だが、当時は予言にすぎなかった内容が現実味を増したタイミングで、売れ行きを伸ばしてきているようだ。
それでは、先週のベスト5を見ておこう。
「今回はベスト5だと店頭の本の動きを反映していない」と広瀬さん。1~3位がすべて著者関係、版元関係のまとめ買いでランクインしている。4位はビジネス書というよりノンフィクション読み物だが、日本人プライベートバンカーの視点から新富裕層といわれる人々の人間模様を描いている。5位もまとまった注文が入ってのランクインだが、「社内の勉強会に使うための購入ではないか」という。『東芝 粉飾の原点』はベスト5ではないが、第9位に入っている。
(水柿武志)