「出世」の定義なんて、人それぞれでいいんじゃない?
東京糸井重里事務所 取締役CFO 篠田真貴子氏(下)

慶応義塾大学を卒業して旧日本長期信用銀行に入行。米国のビジネススクールで経営学修士(MBA)を取るなどした後はマッキンゼーから外資系の大企業に転職し、人もうらやむ出世街道を歩んでいた篠田真貴子さん。人気ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」に転職するキャリアの原点となった出来事を探っていくと、小学生のころの異文化体験に行き着いた。
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「ほぼ日」を運営する東京糸井重里事務所(東京・港)に転職する直前は、かなりモヤモヤしていました。正直に言えば、「出世競争」に飽きちゃっていたんだと思います。
グローバル企業で出世するためには、ある程度の要職に就いた段階で海外勤務を経験しないといけません。日本市場だけではなく、ほかの市場でも通用する人材かどうかを見極められ、その上のポジションに就けるかどうか、を判断されますから。しかし、2人の子供を産んで悪戦苦闘していた当時、どう考えても海外赴任は無理だろうと思いました。

東京糸井重里事務所 取締役CFO 篠田真貴子氏
だとすれば、これから先何を目標にして働いていったらいいんだろう?
周りの男性たちは職位が上がるたび、あるいは部下の数が増えるたびに喜んでいました。でも、私自身はそこに喜びを感じることができなくなっていました。机が大きくなることとか、個室をもらえることなんて、実はどうでもよかったんです。
みんな必死で競争をしている世界にいるのに、その競争にまったく燃えない自分。これはいかんな、と思いました。
そんな矢先に「ほぼ日」の仕事が舞い込んできた。実際に働いてみて、そうか、自分はこういう異文化と遭遇することが楽しくて、その謎めいた世界を探求することが楽しかったんだと気づきました。
正座をしようとしたら怒られた
私が初めて異文化と遭遇したのは、5歳の時です。日本のメーカーに勤務していた父の仕事の関係で、米国のロザンゼルスに行くことになりました。