ミドルの転職、最新キーワードは「IPO・社外取・地方」
リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長 波戸内啓介

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エグゼクティブ(経営幹部)層の転職を手がけるリクルートエグゼクティブエージェントに寄せられる求人の中で、特に今の時代ならではの傾向と転職事例をお伝えします。前回は「グローバル人材」「IT・ウェブ人材」の採用動向についてご紹介しましたが、今回は「IPO(新規株式公開)準備」「社外取締役」「地方企業」という3つのキーワードに目を向けたいと思います。
上場企業での経験を生かし「IPO準備」を支援
成長を遂げたベンチャー企業がIPOの準備段階にさしかかると、監査法人や証券会社などから「最高財務責任者(CFO)の配置」「管理部門の整備」などを求められることになります。
既存の経営幹部メンバーは、マーケティングや営業、エンジニアなどのプロが中心で、ファイナンスや組織管理についてはカバーできていないケースがほとんど。そこで、「CFO」「経理・財務部長」といったポジションをはじめ、「管理部門長」「コンプライアンス」などの人材ニーズが発生します。「IPO準備室長」といった肩書で迎えられるケースは多いようです。
こうしたポジションでは、上場企業で経験を積んだ経理・財務、管理部門のスペシャリストが採用ターゲットとなります。過去に別のベンチャー企業でIPOに関する業務を経験した人は引っ張りだこといえるくらい需要があります。
実際の事例としては、インターネット業界で数百億円規模への事業成長を経験し、経理・財務部長を経てCFOの経験も積んだ方が、上場エンターテインメント企業のeコマース(電子商取引)子会社に迎えられたケースがあります。
別のインターネットコンテンツ企業では、IPOを目指す中、これから新たに展開しようとしていた事業分野でマネジメント経験が豊富な人を、最高執行責任者(COO)として迎え入れました。
社外取締役として経営者をバックアップ
2014年、政府の新成長戦略の一環として「コーポレートガバナンスの強化」が掲げられました。その流れを受けて、従来の大企業だけではなく、IPO後に急速な成長を遂げたベンチャー企業群なども含めて、「企業としての正しい事業経営のあり方」についての知見を求められるケースが増えています。結果的にそれが「社外取締役」や「社外監査役」などの採用ニーズとして、我々のところにも多数のご相談が寄せられるようになっています。
事業規模が急速に拡大したあるヘルスケア企業の場合、金融業界やコンサルティング業界から複数の社外取締役が集結。経営チームで社長をバックアップし、「上場企業の経営」を実践されようとしています。
このようにビッグビジネスを経験したミドル世代以上の「重鎮」的なプロフェッショナルが、ベンチャー企業のサポートに入る動きが急速に生まれており、今後もこの流動化は活発になると考えています。
それ以外にも、政府による「女性活躍推進」に伴い、取締役や監査役として「女性プロフェッショナル」を活用したいという声が強くなっている流れにも注目しています。
地方企業の再生、事業承継を担う
この数年、地方の企業が、大都市圏で経験を積んだ人材を経営幹部として迎えたいとする傾向が強くなってきています。職種としては、経営企画、管理部門長、CFOなどのポジションで採用するケースがよく見られます。
地方企業の幹部採用の背景には、大きく分けると、「事業を成長させる」「事業を再生する」「事業を承継する」というニーズがあります。事業承継ニーズの中には、経営を継承してもらう次世代経営者のほかに、経営を引き継ぐ2代目・3代目の社長をサポートする"参謀"を求めるケースも少なくありません。まだ若い次世代社長を「育成する」役割で、定年を控えた世代のベテランビジネスパーソンが参画することもあります。
リクルートエグゼクティブエージェントでは、全国各地の金融機関と手を結び、その投資先・融資先企業が抱える経営課題の解決のため、大都市圏の優秀な人材をご紹介しています。同業界あるいは近い業界で実績を持つプロフェッショナルが地方企業のサポートに入ることで、事業の再生、あるいは成長を加速させるのが狙いです。
一例ですが、東海地方の建設会社の事業再生を支援するため、首都圏の大手建設会社で部長職だった50代半ばの方が経営幹部として転職し、活躍されています。
ちなみにこのケースのように、大都市圏から地方企業に役員や幹部として参画する場合、「数年間の単身赴任」という形が多いようです。例えば50代の方であれば、持ち家と家族をそのまま残し、定年までの数年間だけその土地に住み、自分なりの仕事の集大成とする、という選択をする方がほとんどです。
もちろん、故郷へUターン、あるいは住みたい土地へのIターンを目指し、希望の土地でそうした求人案件を探す手もあるでしょう。中には、地方に単身赴任中、遊びに来た奥様がその土地を気に入り、結果的に夫婦で移住したという事例もあります。
――「経営幹部の転職」といっても、求められるスペシャリティーや役割はさまざまです。自身のキャリアの中で特にどの経験を生かしたいのか、どんな会社、経営者をサポートしいのか、あるいは自分が求められる場所であれば単身赴任も視野に入れるのか、などによって、実力を振るえる機会は大幅に変化します。
「キャリアの棚卸し」だけではなく、ご自身の志向や価値観を明確にすることで、納得感の高い転職につなげていただければ幸いです。
連載は3人が交代で担当します。
*黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
*森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
*波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長

株式会社リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長
1989年リクルート入社。営業部門、企画部門責任者を経て、リクルートHRマーケティング関西など、リクルートグループの代表取締役社長を歴任。2011年リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長に就任。
株式会社リクルートエグゼクティブエージェント(http://www.recruit-ex.co.jp/)