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「それから、本当に一緒になってやっていけるかも考える。一言でいうと経営の風土、企業風土という言葉になります。言うのは簡単ですが、そんなフワフワした話ではありません。社員一人ひとりの行動の集積が企業の風土なんです。企業風土を見ていると大体、一緒にやっていけるかどうかわかります。時に大きな買収になればなるほど企業風土が与える影響は大きい訳です」

 ――企業風土があうとは、具体的にはどういうことですか。

「買収の対象企業は基本的には競争相手ですから、どういう競争をしてきた会社であるかが大事です。例えば我々はブランドの価値をどんどん高めて、それで企業価値を高めていきたいと思っていたとする。相手の会社はそうじゃなくてコストベースだけカットすればいいと思っている会社だったら、一緒になったらものすごく大変なことが起きるんですよ。ただ、欧米の企業と経営理念があうというのは実は難しい。我々は顧客を中心に株主、従業員など広い意味の社会的責任を果たすことを第一に考えています。一方、欧米企業は株主しかみえていないところが少なくない。だけど、経営者が誠実であるか、また謙虚であるかは、経営や事業の内容を見ていればわかります」

 ――実際の買収交渉では相手のトップとどのように交渉していましたか。プライベートもつきあったのですか。

「ガラハーの場合は2006年9月に初めてCEOと会い、両社で何かやれることはないか、という話し合いからスタートしました。我々のチームは20人ぐらいでしたが、毎日のように両社で議論しました。ゴルフなどのプライベートのつきあいは一切なしです。個人的に仲良くなり、相手の社長にほれて買収するのは一番危ないことです。たとえ相手側のトップがどんなに優れた名経営者でも、いついなくなるかわかりません。欧米企業ではヘットハンティングは当たり前です。買収後も事業がうまく継承できるように考えなくてはいけません」

 ――かつて大型買収では1年ぐらい資産査定(デューデリジェンス)にかける企業もありましたが、買収対象の企業の事前調査はどのようにするのですか。

「デューデリジェンスに1年もかけていたら、相手が公開企業だったら噂になり、競争相手も出てきて、どんどん価格がつり上がります。まず我々の場合は、足を使って主要市場を調査して回ります。ガラハーの時は、実際のお店を何軒も回り、客層や陳列品を見るなどして入念に調べました。そして法務や財務、税制、年金など各問題に対応していくわけです」

 ――買収する際には「隠れ債務」など思わぬ落とし穴もありますが。

「そうです。相手側は全部の情報を教えてくれるわけではないので、自分たちで想定して問題点をつぶしてゆく。例えば、年金は資産と負債がバランスしていないと、後で補填しないといけないが、国によって制度も異なる。そういうのを全部チェックしていないと大変なことになります」

新貝康司氏(しんがい・やすし)
1980年京大大学院修了、日本専売公社(現日本たばこ産業、JT)入社。2006年にJTインターナショナルの副社長兼副CEOに就き、英国たばこ大手ガラハーなどの買収と統合を指揮。11年から現職。

(代慶達也 宇都宮想)

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