出世の階段を登るための 意識の切り替え方
今ドキ出世事情~あなたはどう生きるか(11)

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「プライベートを大事にしながら、多くの人に認められたい。お金もほしい。たくさんの人に話を聞いてほしい。いつも幸せでいたい」
多くの人が望んでいる理想的な生活は、出世によって手に入りやすくなります。働き方の裁量が増えることでプライベートを大事にできるようになるし、生み出す成果に応じた報酬などのリターンも増えるからです。
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しかしそのために「今現在はプライベートを犠牲にしてハードワークを我慢する」ことになるのであれば、躊躇する人が多いでしょう。
スタンフォード大学で行われたマシュマロ・テストは、将来のご褒美のために目の前の欲求を我慢する子どもが、将来、社会的に成功しやすいという実験結果を示しています。ということは、目の前の苦労を受け入れられない人は出世できないのでしょうか?
いえ、どんな人でも、ちょっとした意識の切り替えで出世の階段を登れるようになります。
そもそも公私はなぜ生まれている?
前回記事「スピード仕事術だけでは出世できないのはなぜ?」で、公私一体でなければ出世がむずかしいということを記しました。特にオーナー企業において、会社とプライベートとを分けるようであれば、管理職にはなれたとしても役員にはなれない、ということを示しました。
管理職と役員、それぞれに求められる意識の違いは公私一体であるか否かですが、良く考えてみれば、経営者や役員以外にも公私一体の働き方はたくさんあります。
たとえばスポーツ選手。超一流の選手に限らず、プロフェッショナルとして活躍する選手は、プライベートでも常に「スポーツ選手」である自分を意識します。たとえば翌日の午前中に試合があるのに、前夜に夜更かしする人はほとんどいないでしょう。有名選手で、豪快な人物像として夜遊びが語られる人はいますが、そういう人でもストイックなトレーニングは欠かしません。だからこそプロフェッショナルとして活躍しつづけられます。
限られた人たちの職業じゃなくとも、たとえば寿司職人はどうでしょう。
寿司職人だけれども、夜型の生活がしたい、という人は寿司職人としてレベルアップすることが難しいでしょう。なぜなら、良い魚が取引される魚市場が開いているのは早朝だから。寿司職人としてプロフェッショナルになる人は、自然と朝型の生活をすることになります。
他にも、弁護士や会計士、税理士などの資格職の人は、目の前の出来事を自分の仕事と関係させて考えてしまうようになります。
技術力やセンスが求められる建築家やデザイナーは、住む場所や着る服にも独自の判断をするようになります。誰かがそうしているから、という生き方を選ぶ人はプロフェッショナルとして成功しづらいでしょう。
会社に入社した人は公私を分離したがりますが、職業に就いた人は公私が自然と一体化します。
自分自身の職業を考えてみる
あなたの職業はなんでしょうか。
サラリーマン、はもちろん職業ではありません。最近言われるビジネスパーソンもやはり職業ではありません。それは状態を示しているだけです。
この問いに対して、多くの人はこういう答え方をします。
では前は?
「営業事務でした」
なるほど。で、だから職業は?
「〇〇という会社の従業員として働いている、ということでしょうか……」
自分の職業を答えられない人は、自分が生み出した価値を示すことができません。このタイプの働き方をしている人を日本で伝統的な総合職正社員だとすれば、総合職正社員は組織の中で上に行くことだけが出世となってしまいます。課長をめざし、部長をめざし、役員を目指す。だからこそ会社と自分とを一体化しなくては出世できないわけです。
職業人にとって公私はあいまいになりやすい
しかし、自分の職業を答えられる場合には、別の選択肢を手に入れることができます。
たとえばこう答える人です。
職業は居酒屋の店員ということ?
「いやまあ、今は、ですね」
というと?
「そりゃ独立して居酒屋を経営するために今ここで働いていますから」
じゃあ居酒屋業?
「居酒屋のおやじ、でいいですよ。今はにーちゃんかもしれませんが(笑)」
あるいはこういう人もいるでしょう。
医師、ということでOKですか?
「いえ、外科医師です」
なるほど、それはいつまで?
「手術ができる間は外科医師です。体が衰えて手術ができなくなったら、引退します。今の病院では50才以降は手術を担当できないので、50才になった時点でもう少し小さなところに移る予定です」
職業を答えられる人たちは、公私の区分がとてもあいまいです。もちろんプライベートはあるのですが、ふとした拍子にプライベートがオフィシャルに変わったりします。「居酒屋のにーちゃん」は、友達たちと飲みに行った店でもついつい客席数や働く人の人数。サービス水準、メニュー構成や見せ方などを確認してしまうでしょう。外科医師は、患者を担当している間は、急変にいつでも対応できるようにプライベートをコントロールしようとします。
この場合、公私が一体化していたとしても当人たちはそのことについて苦しいとか嫌だとかは思わないでしょう。たとえ「時給になおしたら500円もないよ」と愚痴を言っていたとしても、それはむしろ自慢話なわけです。
同じ公私一体でも、職業を答えられるかどうかで随分と変わってくることがわかるのではないでしょうか。
プロフェッショナルにとっての出世の道
職業が明確になっている人にとっての出世とは、プロフェッショナルとして生き続けるキャリアそのものです。
ある会社で働いていても、別の会社の方が活躍できるとすれば転職することもあるでしょう。時には独立して、フリーランスとして仕事を請けることもあるかもしれません。さらに会社を興して、プロフェッショナル達のファームを作ることもあるでしょう。
それは言い換えるなら、稼ぐ仕組みの中で費用としての給与を得ている働き方から、自分自身が生み出した価値の対価を得る働き方に変化するということです。
目の前の苦労を苦労と思わずに出世する。そのために必要なきっかけのひとつは、自分の職業を定めることでもあるのです。
そのような方向性は、近年、特に強く求められています。世帯構成の変化もそうですし、働く意識の変化も理由の一つです。そして、人事の仕組みの変化もそのことを強く後押ししています。それは総合職正社員の給与についての深刻な変化です。
詳細は次回に。

セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。