元気の出る人口論、大手町で人気
紀伊国屋書店大手町ビル店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測に戻る。7月末以来の訪問になる紀伊国屋書店大手町ビル店だ。9月に入りはしたが、まだ本の動きは鈍い。そんな中、動きが目立つのは経済学者による1冊の人口論だという。
人口減少ペシミズムに警鐘
その本は新書の平台の中央に並んでいた。吉川洋『人口と日本経済』(中公新書)だ。人口と経済の関係を考えてみるという軽めの経済エッセーだが、18世紀以降の人口論を紹介した上で今日的問題である日本の人口減少について考えていく体裁で、マクロ経済の専門家ならではの知見が随所にちりばめられた示唆に富む内容だ。
著者が強調するのは「人口減少ペシミズム(悲観主義)」が行き過ぎているという現状認識だ。働く人の数が減るのだから、経済成長は無理といった議論があまりにも幅を利かせ、企業が家計をしのぐ、日本経済の純貯蓄主体になっている現状を嘆く。経済成長の源泉は人口ではなくイノベーションであり、企業が退嬰(たいえい)的になって貯蓄を増やし、冒険をやめてどうするのだ、というのが本書の一貫した主張だ。「新書で読みやすいということもあるが、元気になるタネを見つけたいという人が多いのでは」とビジネス書を担当する広瀬哲太さん。先週(8月29日~9月4日)の新書ランキングで4位に食い込んでいる。
マイナス金利政策めぐる本に関心

日銀による総括検証を控えてマイナス金利政策論への関心が高い
そのほか目立つのは金融関連の新刊だ。岩田一政、左三川郁子、日本経済研究センター編著『マイナス金利政策』(日本経済新聞出版社)は表題のとおり、マイナス金利政策について、そのメカニズム、効果と問題点を理論・実証両面から徹底分析した1冊。日銀がは9月20~21日の金融政策決定会合で、異次元緩和の「総括的な検証」を実施するのを控えて、金融関係者の関心が高まってきており、金融の街大手町では売れ行きを大きく伸ばしている。櫻井豊『人工知能が金融を支配する日』(東洋経済新報社)も広瀬さんが売れ行きに注目している1冊。著者は東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経てソニー銀行の設立にかかわった金融市場と金融商品、及び金融技術の専門家。人工知能の導入が進むことにより雇用が奪われていく金融業界の未来を描いており、やはり銀行マンなどが高い関心を寄せているという。
業界地図17年版刊行でにぎわう
それでは先週のベスト5を見ていこう。
1位は著者関係のまとめ買いが入った本。3位と4位は2013年と2014年刊行の本だが、社内の勉強会で使うということで、まとまった注文があった。2位と5位はともに就活の本。企業研究のベースとなる情報を1冊に詰め込んだ本だ。毎年8月下旬に翌年版が出るため、この時期は改訂を待って買っていく人で大きく需要が膨らんだ。
(水柿武志)