八重洲でケタ違いの売れ行き『住友銀行秘史』
八重洲ブックセンター本店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回訪れたのは定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。先月訪れたときは夏枯れを脱し、力強い新刊の相次ぐ発売で活気を取り戻していた。今回はさらに1冊、強力な金融ドキュメンタリーが新たに発売され、一ケタ違う売り上げを見せている。
イトマン事件、内部告発者の証言
その本は国重惇史『住友銀行秘史』(講談社)。戦後最大の経済事件といわれたイトマン事件をめぐる住友銀行内部の動きを、その渦中にいた幹部行員が自ら明かした迫真のドキュメントだ。大蔵省やマスコミに内部告発文を送って事態を大きく進展させた当の本人が著者の国重氏。当時つけていた克明なメモを元に、そのとき住友銀行の中で何が起こっていたのかを丹念に再現している。
1990年春に始まる、はがき半分ほどのサイズの縦長の手帳に細かい文字で記録されたメモは最終的に8冊に及んだという。そのメモを引用しながら1年4カ月の動きを時系列で追っていく。氏の情報収集は行内の役員や同僚、新聞記者、外部のフィクサー、大蔵省、日銀などへと及び、個々のやり取りがつぶさに記録される。その生々しさは圧倒的だ。磯田一郎会長はじめ当時の関係者のほとんどが実名で登場する。
事態はどんどん抜き差しならなくなっていくのに、役員たちの暗闘でなかなか解決の方向に進まない。マスコミや内部告発文を使いながら外側から事態を動かそうとしても、急転直下の進展を見せるわけでもない。天皇と呼ばれた実力会長の顔色を伺う上層部、そこに派閥抗争が絡み、事態は悪化の一途をたどる。
社内の権力闘争、自分ならどうする?
「今思えば、あのころの自分が一番理想に燃えていた」。著者はエピローグでそう述懐するが、そんな使命感にあふれた著者の当時の思いが本書のページを繰らせるエンジンだ。どんな会社でも失敗が失敗を呼ぶ事態や権力闘争やは起こり得る。そのときどう行動するのか、そんなことを考えさせられる一冊だ。
「金融関連、そして関係者自らが語った秘史ということで話題性は高いと見て大量に仕入れた」と、ビジネス書を担当する同店2階フロア長の木内恒人さんは話す。それでも文字通りケタ違いの売れ行きで「発売から10日、だいぶ店頭在庫が薄くなってきた」。重版が決まったため、そこでも大量の注文を出し、週末には届くとのことで一安心の様子だった。
『やり抜く力』 なお好調な売れ行き
それでは、先週のベスト5を見ておこう。
1位はランキング入りを狙って著者、版元関係のまとめ買いが入った。人気コンサルタントによる、仕事をさばくのがうまい一見できる人が「真のできる人」なる方法を説いた本で、まとめ買いがなくてもコンスタントに売れていきそうだという。2位が『住友銀行秘史』。売れた冊数は3位以下とは一ケタ違うそうだ。3、4位はまとめ買いによるランクイン。5位の『やり抜く力』は、前回同店を訪れたとき紹介した。そのときの期待通り、今なお好調な売れ行きが続いている。
(水柿武志)