人生100年をどう生きるか『LIFE SHIFT』が注目
紀伊国屋書店大手町ビル店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店に戻る。『やり抜く力』や『住友銀行秘史』など秋口以降の話題の本が、今なお好調な販売を続ける中で、また新たに強力な新刊が出て、店頭のにぎわいが増している。
長寿化の新たなビジョン示す
その本はリンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT』(池村千秋訳、東洋経済新報社)。前回の丸善・日本橋店でも少し触れたが、ロンドンビジネススクール教授で、組織論、人材論の世界的権威の1人、グラットン氏が同じ学校の経済学者で経済政策やマクロ経済の専門家のスコット氏と組んで、これからの時代の生き方、働き方を多面的に考察した1冊だ。
「私たちの人生は、これまでになく長くなる」。序章に書かれたこの1行が本書の問題意識の根幹だ。負の部分が強調されがちな高齢化問題だが、著者たちは長寿は「大きな恩恵の一つ」かもしれないととらえる。長寿化の恩恵に最大限浴するにはどうすればいいか、そのためにどのように人生を組み立てたらよいか、そこを大きなテーマとして本書は展開する。
結論めいたことをいえば、学び、働き、老後を過ごすという3ステージの人生の縛りから自由になり、「仕事を長期間中断したり、転進を重ねたりしながら、生涯を通じてさまざまなキャリアを経験する――そんなマルチステージの人生を実践すればいい」となる。そのためには「私たち一人ひとりも大きく変わる必要があるし、企業などの雇用主や、社会と国家も大きく変わる必要がある」。その変化の予測を、個々人の人生設計から、労働市場の未来、政府の取り組むべき課題まで描いてみせ、読者を長寿を恩恵とする世界観へと導いていくのだ。
3人のモデルで自分事として読ませる
本論の展開では、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンという3世代の架空のモデルを登場させ、それぞれの人生をたどりながらジェーン100歳の未来までを描く。読者は自分に近い生年のモデルに重ね合わせながら、これから訪れる変化が自分に及ぼす影響を考察できる仕掛けになっている。
「100年時代の人生設計という未来志向のテーマから手に取るお客様が多い」とビジネス書を担当する広瀬哲太さんは言う。先週は著者が来日し、大手町で大型のセミナーが開催され、そこで出張販売したことも大きく部数を押し上げた。
『住友銀行秘史』が首位
それでは、ベスト5を見ておこう。
1位は『住友銀行秘史』。金融関係の本が売れるここ大手町では鉄板の売れ行きが続く。2位と4位は著者、版元関連のまとめ買いでランクインした。3位に『LIFE SHIFT』。5位は紀伊国屋書店がおすすめする本としてレジ前の平台に展示するなどでロングセラーを続けている。
(水柿武志)