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社員全員と握手をした宗一郎氏

宗一郎氏がいかに現場目線に立ったリーダーだったかということを示すエピソードに、社長を辞めた時に国内外の事業所をすべて回って、社員全員に握手したというものがあります。

宗一郎氏はこう言っています。

 「ほんとは、現職にいる時、うちの社員と名のつく人に全部あって握手してやりたかった。社長を辞めて、やっとその念願を果たすことができた。日本国内で700カ所、回るのに1年半かかったよ。それから海外の駐在員のところを飛行機で回った。それも半年かかったもんだ。うちの社員でありながら、オレの顔を見たことがないのが大勢いるんだ。ことに地方の出張所や、SFというサービス機関の社員とかね。
 一人ひとり手を握ったんだ。オレは涙が出た。むこうの若い連中も泣いたよ。けど、オレは士気を鼓舞するなんて気じゃない。自分が嬉(うれ)しいからやるんだ。オレは社長を辞めて、やっと人間らしいものにいきあったよ。」

そして、これほど大きな企業を生んで育てたにも関わらす、「社長なんて偉くも何ともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ。要するに命令系統をはっきりさせる記号に過(す)ぎない」とさえ言っています。

このようなサーバントリーダーとしての心意気が伝わったためでしょうか、ホンダの米国進出時には、当時日本企業を必ずと言ってよいほど悩ませていた労働争議が一度も起きなかったそうです。

さらに、指導者(リーダー)に関して、宗一郎氏はこう言っています。

 「これからの指導者、たとえば企業の経営者などもそうだが、彼はまず皆の仲間でなければならない。同僚であるという感覚で出発しない限り、多くの協力は得られないし、またその能力も十分に発揮できない。」

これは、グリーンリーフによるサーバントリーダーの定義のひとつである「対等なメンバーの中の第一人者」と同義であり、まさに本田宗一郎氏はサーバントリーダーそのものであったのです。

◎出典:本田宗一郎著「やりたいことをやれ」(PHP研究所)、他

森洋之進氏(もり・ようのしん)
アーサー・D・リトル パートナー

東北大学工学部機械工学修士課程修了。米カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)。大手電子機械メーカー(商品企画、設計・開発、海外戦略立案、合弁会社設立等)、米国系経営コンサルタント会社勤務を経て、ADLに参画。経済産業省「産業構造審議会知的財産政策部会経営・情報開示小委員会」委員、同省「特許権流動化・証券化研究会」委員。製造業を中心とする国内、海外における事業戦略立案、技術戦略立案、知的財産戦略立案、経営革新支援などを手掛けている。

この連載は日本経済新聞火曜朝刊「キャリアアップ面」と連動しています。

(2)組織のあり方 全員が対等なリーダー >>

サーバントリーダーシップ

著者 : ロバート・K・グリーンリーフ
出版 : 英治出版
価格 : 3,024円 (税込み)

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