「社長失格」を経てわかった働く上で大事なこと
BCGデジタルベンチャーズ パートナー 平井陽一朗氏(下)
ところが、結果は2年も経ずに退任。
失敗した理由はいろいろ挙げられますし、調子に乗っていた反動と言えばそれまでですが、ひとことで言えば、私が決定的に甘かったということでしょう。当時、ザッパラスの売り上げのほとんどは「占い」が稼いでいましたが、まずその主力事業への没入が圧倒的に足りなかった。

BCGデジタルベンチャーズ パートナー 平井陽一朗氏
オリコン時代と決定的に違っていたのも、その点です。音楽は大好きでしたから、どぶ板営業も苦もなくできました。おそらく占いも勉強していくうちに興味がわいて、同じようにできるようになるだろう、と考えていたのですが、結果として、そこまでやり切れませんでした。
社員とのコミュニケーションも絶対的に不足していました。従業員数200人くらいの会社ですから、一人ひとりと話そうと思えば話せたはずなのに、それをきちんとやらなかった。そればかりか、自分がもっと興味を持てるような事業の柱をつくろうと、無理やりほかのエンターテインメント事業をやろうとして、社内的に足並みがそろわない状態を作り出してしまいました。不可抗力のような要素もありましたが、それらは結果を出せなかった言い訳にしかなりません。要するに「社長失格」です。
結局、11年7月の株主総会で退任が決まり、8月1日からは前回お話ししたような、プータロー状態になりました。
「すごくおいしいレタス」をつくりたい
振り返ってみると、僕はこれまでいろんなことを成り行きで決めてきたんだな、と思います。三菱商事に入ったのも、BCGに転職したのも、その後、社長になったのも、すべて成り行き。BCGに戻って、デジタルベンチャーズの東京センター立ち上げを担当することになったのも、ある意味では成り行きです。ですから、基本的にはあまり成長していないのかもしれないんですけれど、ひとつだけ、明らかに以前と違っていることがあるとしたら、「世の中に対して本質的にいいことを仕事にしたい」と思う気持ちが、強くなったことでしょうか。
ある尊敬する方がおっしゃっていたのですが、仕事の9割は食べていくための「シノギ(なりわい)」です。これはこれで大事なことですが、それだけだと長くは続きません。仕事の本質は、残り1割の部分にある。じつは、この1割があるからこそ、9割のつらさを我慢できる。もしも、この1割の本質が感じられないままだったとしたら、報酬が下がったとたん、モチベーションは下がっていくでしょう。