「社長失格」を経てわかった働く上で大事なこと
BCGデジタルベンチャーズ パートナー 平井陽一朗氏(下)
抽象的な言い方になってしまいますが、例えるならば、僕は今「すごくおいしいレタス」をつくりたい。少人数でもいいから、土壌を耕し、肥料を加え、毎日水をあげ、草をむしるような作業から始めて、自分もそれを食べた人も100%満足のいくようなレタスをつくりたい。最初にそういう純度の高いプロトタイプをつくれたら、それが成長してもDNAは残りますから、次の世代へとつないでいくことができます。手触り感のある「いい」仕事ができるような、健全な環境や状態をつくりたいということです。
BCGデジタルベンチャーズが手掛けようとしているのも、そういう本質的な部分に関して純度の高い仕事です。あらゆる分野でデジタルが重要になってきたのはわかっていても、何をしたらいいのか、わからない。どこから手をつけていいのかわからないという企業にアイデアを提供し、彼らと一緒になって「とびきりのレタス」をつくっていく。
今が一番「やりたいこと」に近づけている

「若手を見ていると、本質的な『いいこと』『楽しいこと』を欲しているような気がする」
BCGがグローバルでデジタル部門を立ち上げたのは14年です。現在はロサンゼルス、シドニー、ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、そして、16年4月に開設した東京の6拠点で、約500人の部隊が稼働しています。日本は僕が立ち上げを指揮し、集まってくれた優秀なプロダクトマネジャーやデザイナー、エンジニアなどのメンバーと一緒に活動しています。
新たに採用した人たちを見ていると、彼らは金銭的欲求や物質よりも、もっと本質的な「いいこと」「楽しいこと」を欲しているような気がします。僕らの世代は親も高度経済成長期を生きていますから、まだまだバブル的な感覚が残っている。物質欲も強いし、世間でいう「良いステータス」とか「出世」の概念にもとらわれがちです。
でも、「0→1」の事業づくりを手掛けることができるのは、彼らのように、本質的な「いいこと」「楽しいこと」は何か、を本能的にわかっている、またはそれを追求できる喜びを本能的に感じる人たちなんじゃないでしょうか?
BCGがデジタルベンチャーズのような別会社を持つようになったのも時代の流れでしょう。おかげさまでこのところ猛烈に忙しくて、採用してもらった時の感謝の念を忘れがちになる日々ですけれど、もしかすると今が一番、僕が「本当にやりたかったこと」に近づけているのかもしれません。
1974年東京都生まれ。米国の公立高校を卒業後、東京大学経済学部卒業。三菱商事を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコン副社長兼最高執行責任者(COO)、ザッパラス社長兼最高経営責任者(CEO)を経て、再びBCGに入社し、現在は同社パートナー&マネージング・ディレクター。BCGデジタルベンチャーズの東京センター立ち上げを主導。主に大企業のデジタル分野の新事業構築に取り組んでいる。
(ライター 曲沼美恵)
前回掲載「名門を渡り歩いたエリートが直面した人生の谷間」では、名門企業を渡り歩き、念願のエンターテインメント業界に携わるまでを振り返ってもらいました。