一方的に話し続ける人はリーダーとして成功しない
スタンフォード大学経営大学院 グロースベック教授に聞く(2)

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はアーヴィング・グロースベック教授の2回目だ。
グロースベック教授が教える授業「経営者の会話術」で、学生は様々な経営者の役を演じながら、アドリブで会話をしなくてはならない。ここで学生がよくやってしまう失敗の一つが、「長々と話し続けること」だ。なぜ、一方的に話す人はリーダーとして成功しないのだろうか。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 アーヴィング・グロースベック教授(C)Nancy Rothstein
建設的な会話に有効な「沈黙」
佐藤:「経営者の会話術」の授業の中で「コミュニケーションをうまく進めるには、自分から沈黙する=自分の話をやめることも必要だ」という話がありました。「沈黙は金なり」とはよく言われますが、こちらから沈黙すると、コミュニケーションがうまくいくとはどういう意味でしょうか。
グロースベック:人間は緊張したり不安になったりすると、多弁になるのです。自分に自信のない人は、ひたすら話しつづけ、同じことを何度も繰り返して言う傾向にあります。
佐藤:最近、グロースベック教授を訪ねてきた人は、「~というような」(sort of)という言葉を何度も繰り返していたそうですね。
グロースベック:そうです。自分に自信のある人は、ある程度自分の話をしたら、話をやめて、相手の反応を待ちますが、彼は、sort of を繰り返しながら、話し続けました。
佐藤:どのような状況で、話をやめればいいのでしょうか。
グロースベック:言いたいことを簡潔に言い終わったら、そこで話をやめてください。こちらが無言になれば、相手は「何か話さなくては」と思います。そこで建設的な会話が成立するのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。
佐藤:沈黙は、交渉や面接の場でも有効ですか。
グロースベック:とても有効です。何かを営業するとき、人にフィードバックを与えるなど、あらゆる場面で使えます。沈黙するというのは、相手に対する敬意を示すことでもあるのです。仮に佐藤さんと私が2人でミーティングしていたとしましょう。一方的に私が話し続けて、「私にもちょっとは話させてください」と手をあげなくてはならないような状況になったら、どんな気持ちになりますか。「グロースベック教授は私の意見や考えを聞く気が全然ないな」「私のことを大切に思っていないな」と思うことでしょう。
経営者は簡潔に話す
佐藤:グロースベック教授は、長々とコメントしていた男子学生に対して、「今言ったことを、3分の1の長さにして、もう一度言ってみて」と助言しました。それはなぜですか。
グロースベック:「簡潔に言うこと」は、権力をもたらすからです。長々と説明しないということは、そういう立場にあなたがいるということなのです。また「簡潔に言うこと」は、沈黙と同じで、相手に対する敬意の象徴でもあります。
仮に私が「ちょっと話したいことがあるから教授室まで来てください」と言って佐藤さんを呼び出したとしましょう。そこで私が、延々と自分の話を続けたらどうでしょうか。目の前にいる佐藤さんはきっと「なぜこの人は長々と同じ話をしているのだろう。一体何が言いたいのかな。早く要件を言ってくれないかな」と不安に思うことでしょう。
佐藤:呼び出されたのに、相手に延々と話されると、何を言われるんだろう、と緊張しますね。
グロースベック:そうなんですよ。長々と話すことは、必要以上に相手を緊張させるのです。そのかわりに、短くこう伝えたらどうでしょうか。「佐藤さん、最近、授業に集中していませんね。教室の中をキョロキョロと見回したり、ずっと下を向いて書いていたり、ぼーっとしていたり……。何かあったのですか。私にできることがあれば言ってください」
佐藤:そう言われたら、自分が集中できていない理由を伝えて「これから気をつけます」と言いますね。それで終わりです。
グロースベック:「こちらから沈黙する」「簡潔に話す」というのは、相手に敬意を示すためにとても有効な方法ですから、ぜひ学生に身につけてもらいたいと思っています。
グロースベック教授の略歴は第1回をご参照ください。