スタンフォード一番人気の授業 会計学が魅力的なワケ
スタンフォード大学経営大学院 ブランケスプール助教授に聞く(1)

スタンフォード大学経営大学院 エリザベス・ブランケスプール助教授 (C)Doug Peck
世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回から会計学のエリザベス・ブランケスプール助教授が登場する。
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「入学前、最も不安だった科目は会計だった。それが今は最も出席するのが楽しみな授業となった」「彼女はスタンフォードでナンバーワンの教授だ。自分でも会計を理解できるのだ、という希望を与えてくれた」。スタンフォードの学生から今、最も絶賛されているのがブランケスプール助教授だ。人気の秘訣は何なのか。ご自身に解説してもらった。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)
エネルギッシュに議論する授業
佐藤:ブランケスプール助教授は、2016年6月、スタンフォード大学経営大学院の学生が選ぶ最優秀教授賞を受賞しました。会計学の先生が受賞するのは快挙ですね。一般的に会計の授業は「必要不可欠だけれど退屈」というのが定石で、学生の間でもあまり人気がありません。ブランケスプール助教授は、会計の面白さをどのように伝えていますか。
ブランケスプール:ディスカッション形式を採用し、とにかくエネルギッシュに議論を進行するように、心がけています。学生は私の講義をただ聴講するのではなく、自ら積極的に議論に参加することによって、会計を学んでいきます。多彩な学生が集まっているので、毎回、面白い意見がたくさん出てきますね。
佐藤:会計の授業といえば、分厚い教科書がつきものです。なぜブランケスプール助教授の授業では教科書を使用しないのでしょうか。
ブランケスプール:その理由は2つあります。1つめは、教科書に書かれていない最新の事例や会計基準を取り上げていること。特に2016年は、数多くの新基準が発表されましたから、それらをテーマに議論することが多かったのです。
2つめは、膨大で難解な会計基準を読み込むことにあまり時間をつかってほしくないこと。会計基準そのものは、会計の専門家が読むことを想定して書かれているので、普通の人にはとても読み難いものです。学生には、会計基準を一生懸命読むよりも、経営者として知っておかなくてはならない知識を得ることに集中してほしいと思います。そのほうが将来、ずっと役立つからです。
佐藤:日本の大学や大学院では、公認会計士試験に合格するために必要な知識やテクニックを教えている授業が多いです。なぜテクニックは教えないのですか。
ブランケスプール:学生は公認会計士になるために私の授業を履修しているわけではないからです。彼らがスタンフォードで学んでいるのは、会社やファンドの経営者になるためであって、会計データを入力する社員になるためではありません。ですから帳簿のつけ方や、特定の複雑な取引について、どの会計規則をあてはめるか、などについて細かく知る必要はないのです。経営者はもっと大きな視点から会計情報を生かさなくてはなりませんから。