大再編後の銀行とは? 将来像探る本、大手町で注目
紀伊国屋書店大手町ビル店

ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店に戻る。年度替わりのこの時期は会社法や株主総会対策の本など、法務まわりの本の動きが活発になるという。そんな中、一般向けのビジネス・経済書でいい動きを見せていたのは、フィンテックの専門家による銀行のこれからを論じた一冊だった。
フィンテック通から見た銀行の未来図
その本は泉田良輔『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)。著者の泉田氏は個人投資家向けの金融経済情報サイト「ロンジン」を運営するテクノロジーアナリスト。証券アナリストなどとして金融業界で15年以上の業務経験を持ち、サイト立ち上げ後は様々な銀行関係者やフィンテックの起業家たちを取材してきた。そこから見えてきた銀行の将来像を大胆に提示している。
「はじめに」の中で、著者は銀行の今後とフィンテックを見るうえでカギとなる2つのポイントを提示する。一つは個人預金の行方、そしてもう一つが「デジタル・ウォレット」の担い手。そして「テクノロジーをきっかけに『口座格差』が生まれようとしている」現実を様々な予兆から描き出していく。その結果、銀行の将来の姿は(1)モバイル型(2)プライベートバンク型(3)投資銀行型(4)クラウド型――の4つに収束していくだろうというのが著者の描く未来図だ。
地銀の環境の厳しさが浮き彫りに
とりわけ大都市圏以外では個人預金の大きな受け皿になっている地方銀行の厳しさが浮き彫りになる。それぞれの地域で身近な資金の預け先になっている地銀だが、フィンテックが進展していくと、より利便性の高い電子的な決済機能を持ったサービスプラットフォームがどんなところでも利用可能になってくる。そのとき資金の預け先が劇的に変わる。そうなると、預金流出が起こって現状のビジネスモデルでは事業継続が難しくなる。アマゾン・ドット・コムが決済サービスに参入してくる可能性、中国のモバイル決済サービス「支付宝(アリペイ)」が指し示すモバイル型銀行の将来像……こうしたフィンテックの進展の豊富な具体例をもとに展開する記述が本書の読みどころになっている。
「小ぶりの判型で、手ごろな価格なので、手にとっていく人が多い。フィンテックと地銀の将来は昨年来人気のあるテーマで、両方に目配りしているところが受けているのでは」とビジネス・経済書を担当する西山崇之さんは話す。新書版の橋本卓典『捨てられる銀行』(講談社現代新書)、津田倫男『地方銀行消滅』(朝日新書)、高橋克英『地銀大再編』(中央経済社)などのヒットと同じ流れだ。店頭に並んで日が浅いのでランキング上位には来ていないが、足元の売れ行きがいいという。
東芝危機の本が上位に
それでは先週のベスト5を見ておこう。
1位と2位は大口の注文があったという。前者は人気会計士による経営計画の指南書、後者は先月の同書店ランキングにも登場したセールスの金言集だ。3位はお金のプロの2人が語る「金持ち老後入門」が触れ込み。書店併設のカフェコーナーで著者2人のトークイベントが開かれ、その場で売れた。4位はニュースに関連した緊急出版の1冊。著者は毎日新聞経済プレミア編集長。2015年に発覚した不正会計問題のときから3冊目の東芝関連の本で、企業がからむニュース関連の本は相変わらず反応がいい。5位は昨年夏刊行の思考術、発想法の本。著名コンサルタントの著者がグーグルやアマゾン、孫正義氏や柳井正氏の事例を読み解きながら最適解を手繰り寄せるアタマの使い方を伝授する。
(水柿武志)