転勤なし高給与の会社が増える? 転職に新たな選択
リクルートワークス研究所副所長 中尾隆一郎

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就職先、転職先を探す際にあまり気にしない「転勤の有無」。私の連載第1回は、転勤のメリット、デメリットを、企業の立場、個人の立場それぞれの視点から考えてみました。
(1) 転勤はあるが給与が高い会社
(2) 転勤はなく給与が低い会社
日本では従業員が転勤を拒むのは難しい
転勤とは、同じ官庁や企業の中で勤務地が変わること。日本企業に勤務していると当たり前の話ですね。当たり前すぎて、転職や就職などで企業を選ぶ際に転勤があるかどうかを考えることは、ほとんどないのではないでしょうか。
日本企業では、労働者に転勤命令を行う場合には、原則として根拠は必要なのですが、就業規則の規定などにより企業側に広範な人事権が認められています。裁判の事例としては、東亜ペイントの最高裁判例があります。「個人の事情があっても企業の配置転換命令は有効だ」という内容です。
1973年、神戸勤務のAさんが広島への転勤を内示されました。母が高齢(71歳)で、保母をしている妻も仕事を辞められず、子供も幼少(2歳)なため内示を拒否。会社はAさんの申し出をいったん受け入れ、別のBさんを広島に転勤させましたが、Bさんのいた名古屋の後任としてAさんに転勤を内示します。Aさんは広島転勤を断ったのと同じ理由で拒否しました。しかし会社はAさんの同意を得ずに転勤発令します。それを拒否したAさんに対し、就業規則を理由に懲戒解雇したという事案です。
結果、86年に最高裁判決で会社側が勝訴しました。30年前の判例ですが、今でも重視されています。つまり、こうした理由だと転勤拒否は認められないのです。
ちなみに、日本企業では当たり前の転勤ですが、欧米では幹部を海外に派遣するような場合を除けば、転勤はほとんど存在しません。どうして日本の企業は従業員に転勤をさせるのでしょうか。
企業が転勤を命じる2つの理由
主な理由は2つです。1つは、労働力の調整です。日本企業は、長期雇用を前提に、業績が悪化しても企業内で労働力を調整するために出向、転勤、異動などを行うからです。日本では、簡単に正社員を解雇できません。どこかの部署の業績が悪い場合、他の部署へ配置転換して雇用を維持しようとします。その際に地域をまたぐケースもあるわけです。