100年迎えた慶応医学部 なぜVB100社目指す?
慶応義塾大学医学部長の岡野栄之教授に聞く

慶応義塾大学医学部長の岡野栄之教授
病院施設には数百億円規模の投資もいる。現在、慶応大学病院では新病棟建設の工事が進んでいる。ただ、新病棟建設で現在約1千の病床数を増やすわけではない。先端医療の研究施設や救急部門の拡充、集中治療室(ICU)などの整備が目的で、巨額投資により病院の売り上げが大幅に伸びるとはかぎらない。順天堂医院など都心の大学病院も次々施設の更新を推し進めており、病院の質やサービスの向上を競っている。
慶応大学のライバル、早稲田大学は医学部創設が悲願といわれて久しいが、国の認可など規制の問題もあり、実現に至っていない。「有名私学でも医学部を持つのは現実的ではない。とにかくおカネがかかる」(法政大学の田中優子総長)というのが現状だ。
「財の独立」を実現へ
厳しい財政事情のなかで、慶応医学部が打ち出したのがVB支援事業だ。岡野教授はこう狙いを話す。「『財の独立』を成し遂げ、『学の独立』を確保し、教育・研究の質の向上を図りたい」。16年に「知財・産学連携タスクフォース」が発足した。研究室で生まれたシーズ(種)を知財としてビジネス化するほか、慶応大学のファンドなども活用したベンチャー投資も検討している。目標は「ちょっと多いけど、将来的にはベンチャー100社の設立につなげたい」という。
医師である岡野教授はなぜVB支援を打ち出したのか。自身のキャリアと大きく関係がある。岡野教授は、臨床医学分野の医師ではなく、研究主体の基礎医学分野の医師。再生医療分野の世界的な研究者だ。「1日15時間は働いている」という岡野教授。昼は学部長としてマネジメントに追われるが、夜は今も研究に没頭している。
再生医療分野、企業と次々連携
ノーベル賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏とは盟友関係にある。脊髄損傷や神経難病など、再生医療の「本命」と期待されていた病気の治療に向けて、岡野教授らのチームは、iPS細胞を使った臨床研究に取り組もうとしている。再生医療の実用化には様々な分野の企業との連携が不可欠だが、岡野教授も製薬大手やベンチャー企業と手を組んできた。