ゴーン氏が語る 結果を出すリーダーは「ノー」と言う
日産財団 監修 太田正孝 池上重輔 編著 「カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座」

国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は「カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座」。企業を取り巻く環境の大きな変化に対応するには、トップのリーダーシップが重要です。本書は、日産自動車のカルロス・ゴーン会長への質疑を通して、世界で活躍できるビジネスリーダーのあり方を示しています。
本書は、公益財団法人の日産財団が主催する「GRIP(逆風下の変革リーダーシップ養成講座)」という幹部育成プログラムを基に構成されています。早稲田大学商学学術院教授の太田正孝さんと同大学の大学院経営管理研究科教授、池上重輔さんが学問的な解説を加え、読みやすくまとめました。第6章で、日産の志賀俊之副会長が知られざるゴーン氏の素顔を明かしているのも読みどころです。
グローバルリーダーに特殊な才能は必要ない

リーダーシップについて熱っぽく語るカルロス・ゴーン氏
日本企業がグローバル化し、外国人や女性の登用といったダイバーシティー(多様性)重視の経営を進めるために、多様な人材をまとめるグローバルリーダーの役割が大きくなっています。では、そういうリーダーはどのように生まれるのでしょうか。海外を渡り歩いてきた人でないと無理なのでしょうか。
ゴーン氏は、そうでない人でも自ら世界と接する経験を積むことでグローバルリーダーになれると説きます。
日本の企業に勤めながらも、中国、アメリカ、欧州などに出向するといったことはその方法の一例です。
けれども、そうした海外出向の機会さえない人もいるかもしれません。そうした人がグローバルリーダーになるにはどうすればよいか。次善の策は、国内の職場にいながら外国から来ている社員と接することのできるような職種に就くということです。
(1 国境を越え、世界を、未来を見つめる 29ページ)
「ノー」という力で常識を変えろ
リーダーの条件として、ゴーン会長は1つのポイントを挙げます。
(1 国境を越え、世界を、未来を見つめる 37ページ)
1999年、ゴーン氏は仏ルノーから経営危機に直面した日産自動車に派遣されました。当時、日産リバイバルプランをまとめる際にも、従来のやり方を続けようとする幹部らに「ノー」を突きつけたといいます。その結果、長い付き合いの部品メーカーの株式を売却して系列を解体するなど、業界の常識を覆しました。課題に直面しているということは、これまでのやり方では通用しなくなっているということであり、大きく方向を変えるには「ノー」が必要だと強調します。
「変革のレシピ」は自分でつくれ
ゴーン氏は「変革」のタネや解決策は、会社のなかにすでにあると指摘します。それを育て、具体化するのがリーダーの力です。では、自動車業界にとどまらず、どんな業界にもあてはまる「改革のレシピ」はあるのでしょうか。
(2 リーダーは完璧であるべきなのか? 64ページ)
日産の業績V字回復を果たしたゴーン氏ですが、きっちり出来上がった解決策を持って乗り込んだわけではないようです。従業員に課題や問題点を聞き、時間をかけて「改革のレシピ」を作りました。そのうえで優先順位を決め、着実に実行したといいます。
本書の魅力は、だれもが認める実績を積んできたゴーン会長の「肉声」を通じて、結果を出すリーダーに必要なことは何かを分かりやすく学べるところです。日本人の強みと弱みに改めて目を向けてみたい人にもおすすめです。
(雨宮百子)
◆編集者からひとこと 網野一憲
「やあ、元気かい!」。必ず笑顔で接してくれるゴーン氏は、一度お会いすると誰もがファンになってしまう魅力とエネルギーに満ちあふれた人です。数年ぶりにお会いしたときもそうでした。きっと私が誰かなんて覚えてはいないのでしょうけれど。
本書は、日産財団主催の「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」における、ゴーン氏と受講者である日本企業の中堅社員たちとの一問一答を軸に再編集したものです。「リーダーのあり方は?」「変革はどうすればできる?」――次々ぶつけられる質問に、飾ることなく丁寧に答える光景は、まさに「熱血教室」。「何かを変えたいと思う、その気持ちが大切だ。君ならできるよ!」 そんな勇気と元気をくれる一冊です。
「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。