給与を増やさないベンチャー社長 その「論理」とは?
20代から考える出世戦略(6)
「ハードワークはもちろん覚悟していました。独身で一人暮らしですから、会社のそばに引っ越して、全力で仕事に取り組めるようにもしたんです。Fさんの口癖だった『ベンチャーはスピードが命なんだよ!』という言葉も好きでしたね。だから朝令暮改とかあると、キタキタ!とか喜んだり。辞めると決めてからも有給はとりませんでしたし、その意味では給与分以上には貢献できたと思ってます」
じゃあなぜ?
「うーん……表向きには、国の施策が変わって収益モデルが破綻したので、数年以内に実現しようとしていたIPO(新規株式公開)が実現不可能になった、ということにしています」
本当のところは?
「……転職した時から、給与が1円も増えなかったんですよ、2年間。年俸で約束していたから、賞与も定額。残業代も込み。1年目は気にならなかったんですけれど、2年目におや?と思って、3年目になるときに確信したんです。ああ、この人、給与増やす気ないんだって。利益を総取りする気しかないんだってわかった瞬間に冷めて転職を決意しました」
資本の論理「だけ」で考える人とは気をつけて付き合う
ベンチャー企業といっても様々です。ただ、彼が働いていたタイプの企業は一定の割合で存在しますし、F社長のような起業家もたくさんいます。
それは「資本の論理で考える起業家」です。今、手もとに100万円持っていたら、それをどう増やすかということを考えるタイプです。このタイプの人は、お金を「通貨」としては考えていません。
普通の考えだと、通貨というのは、支払った結果、その代わりに何かを受け取るための道具です。この場合のお金の使い方は、消費と言えます。

しかし資本の論理で考えると、お金とは、使った以上の価値を、やがてはお金の形で戻してくれるものに他なりません。つまり、資本の論理では、常にこちらが得をするから、お金を相手に渡す(というか預けておく)ものだと考えます。この場合のお金の使い方が投資だと言えます。

あとで説明しますが、実はこの考え方は、私たち全員が持つべきものです。ただ、自分がまだこの投資の考え方=資本の論理をしっかりと身に着けていない状況で、資本の論理だけで考える人と付き合うと、話が通じないことが多いのです。特にそれが自分の会社の社長だったりすると、とてもとてもしんどい思いをします。