変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

たとえば「会社のために働いて利益を出したんだから、賞与としてもらえるのでは?」と従業員が期待しても、資本の論理で考える社長にしてみれば、利益とは投資として渡した給与のリターンに他ならないのです。つまり、給与として投資した分が増えて戻ってきただけだから、賞与を渡すという発想にはなりづらいのです。

このタイプになりやすい社長には、人から給与をもらったことがないか、あるいはそういう扱いを受けてきたことしかないタイプに多いように思います。そして経営者がこのタイプの場合で、企業が長く続くことはありません。その意味では、転職してきた彼が前職に見切りをつけたのは正しい判断だったと言えます。

長期の視点を持っていれば資本の論理「だけ」にはならない

ただし、資本の論理は決して悪ではありません。

もし実ったコメをすべて食べてしまい、タネモミを残しておかないと、農家は成り立ちません。それと同様に、手に入れたお金をすべて消費に回していたのでは、やがて生活が破綻してしまいます。

自らの生活を自らの意志で成立させるためには、消費のためのお金と、投資のためのお金は区分して考える必要があるのです。

では、F社長が正しいのかというと、そうでもありません。せっかく成果を出してくれていた営業の彼が転職してしまったように、すべてを投資に対するリターンと「だけ」考えてしまうと、やがて周りに誰もいなくなるからです。

企業が長く成功し続けるためには、獲得したリターンのうち一定割合を従業員にも還元しなければいけません。そして従業員が消費だけでなく、自分自身のために投資できるだけの余裕を与えながら、できるだけ長く会社のために働き続けてくれる仕組みを構築する必要があります。

つまりそれは、資本の論理に、毎年の繰り返しの視点を入れることに他なりません。人は自分がされた仕打ちを覚えているものです。儲かった時にちゃんと配分がされていなければ、儲からなかった時にガマンしてほしいと伝えても、誰もついてきてはくれません。そうして経営と従業員との間に、長期的な循環関係を構築することが重要なのです。

良くできた給与の仕組みとは、企業を継続的に成長させるために、資本の論理と従業員の生み出す成果とをバランスさせ、良い循環を生み出しています。

だからこそ、自社で出世を目指す場合であっても、やがて独立したり起業したりする場合でも、今いる会社の給与の仕組みがどのようなロジックで設計されているのかを理解しておくことが望ましいのです。

平康慶浩
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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