セール品をさらに値切る手も どこでも使える交渉術
スタンフォード大学経営大学院 ニール教授に聞く(4)

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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はビジネス交渉術を教えるマーガレット・ニール教授の4回目だ。
デパートのセール品はこれ以上値切れないと思い込んでいないだろうか。交渉の達人、マーガレット・ニール教授は、セール品をさらに値切るという交渉にも成功している。その方法とは?(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 マーガレット・ニール氏 (c)Nancy Rothstein
セール品をさらに値切る
佐藤:ニール教授は、デパートでセール品をさらに値下げさせるという離れ業をやってのけました。この交渉でも4つのステップを順に適用したそうですね。
2)情報を集めて準備する
3)相手の意見を聞いてみる
4)パッケージで提案する
値下げに「イエス」と言わせた秘策は何だったのでしょうか。
ニール:店員に、「もう少し値下げしてくれませんか?」と聞いてみたことですね。
佐藤:ダメでもともと。とにかく聞いてみたんですね。最初からセール品をさらに値下げしてもらおうと、やる気満々でセールに行ったのですか。
ニール:それは違います。そもそもセールに行ったのは、機能的で履きやすい靴を何足か買いたいと思ったからなんです。セール会場に行くと、そういう靴が3足ほど見つかり、すぐに買うことを決めました。あまりワクワクしないけれど、まあ日常的に履くには履きやすそうだからいいか、と。すると、突然私の目に、世にも美しいハイヒールが1足、飛び込んできました。このハイヒールを履いたら、おそらく1時間も立っていられないし、長時間歩くのも絶対無理。でも履いているだけで幸せになる。そんな靴でした。
ところがそのハイヒールはセールで少し安くはなっていたものの、ものすごく値段が高い。どうしても欲しいと思った私は店員と交渉してみることにしました。「この3足は絶対買います。できればこのきれいなハイヒールも追加で買いたいのですが、予算オーバーです。もうちょっと安くしてもらえませんか」と。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。
値引きで店員にもメリット
佐藤:つまり、合計4足も買うのだから、交渉の余地ありとふんだ。この場合、事前に情報を収集することはできませんが、店員がコミッション制で働いていることは知っていた。そこで、先に3足買うことははっきり伝えた上で、4足目が安くならないか、相手に聞いてみたわけですね。
ニール:そうです。その後、私と店員との間で、こんなやりとりがありました。
※ ※ ※
私「この3足は絶対買います。できればこのきれいなハイヒールも追加で買いたいのですが、予算オーバーです。もうちょっと安くしてもらえませんか」
店員「1週間後に来てください。その頃には50%オフになっていますよ」
私「こんなきれいな靴が1週間も売れないなんてありえないでしょう。きっと売れてしまいますよ。しかも、あなたではなく別の店員が売ってしまうかもしれないですよね」(この機会を逃したら、彼は歩合を得られないということを強調しました)
店員「それならこういうのはどうでしょうか。今、この靴を値札の値段で買ってもらって、全く履かずに1週間後に返品してください。一旦返金しますから、それをまた50%オフで買い直してもらえばいいですよ」
私「ここから1時間もかかるところに住んでいるので、往復2時間もかけて返品しにきたくありません。きょう買いたいのです。他の方法はありませんか」
店員「ちょっと待っていてください。マネジャーに確認してみます」

米国で出版された交渉術の著書「Getting (More of) What You Want」。近く邦訳の出版が予定されている
佐藤:マネジャーに確認してOKになったのですか?
ニール:実際、彼が裏手で何をしていたのかはわかりません。何もせずに一人で考えていただけかもしれないし、本当にマネジャーに聞いたかもしれないし、ただタバコを吸っていただけかもしれない。何はともあれ、しばらく待っていると彼が戻ってきて「この値段から75ドル、値引きします」と値引きをに了承してくれました。私は「ありがとう」と言って、靴を4足購入し、満足した気持ちでデパートを後にしたのです。
小さいことでどんどん練習を
佐藤:私たちは「セール品はこれ以上安くならない」と思い込んでいますが、とにかく聞いてみることが大切ですね。どうやったら、ニール教授のように交渉の達人になれるでしょうか。
ニール:どんどん練習してください。様々な場で様々な方法を試してみて、うまくいった交渉、うまくいかなかった交渉を記録しておくといいでしょう。デパートで店員とどれだけ値引き交渉したところで、何のリスクもありませんよ。失敗したって、ただ値引きしてもらえないだけ。靴は買えますから。
夫や妻や友人など近しい人と交渉するときは、小さい案件で試してみるのがいいですね。たとえば、友人が予約したレストランに行きたくない場合、どう言えば、気持ち良くレストランを変更してくれるか。共同で問題解決することを念頭に置いて、交渉してみてください。
※ニール教授の略歴は第1回「『想定以上』の結果を得る交渉術 スタンフォード流」をご参照ください。