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このほか文系で現在一番人気の法学部に約220人、看板学部の経済学部に約210人、商学部に約100人などと、慶大の文系主要学部でも塾高出身が高校別で最大勢力となっている。結果、「一貫校では珍しく、塾に行く生徒もいますね」(古田校長)という。ただ、普通の高校のように大学受験に奔走する必要はない。慶大はあらゆる分野の学問領域をほぼカバーしているため、外部受験する生徒はほとんどいない。

日本を代表する正統派のリーダーを輩出してきた塾高。来年、70年を迎える名門校の次の人材育成のキーワードは「異端」だという。古田校長は「ここでいう異端とはイノベーションという意味で使っています。既成の枠組みにとらわれることなく殻を突き破って新たなものを創り出していくということです。今の生徒はまじめで優秀なんですが、小粒になってきた。そこで『正統と異端を兼ね備えた人間づくり』を新たな目標に、70年事業として様々な取り組みを始めています」という。

異端を創る教育棟を建設

70年事業として、本校舎の隣で新教育棟の建設が進む

70年事業として、本校舎の隣で新教育棟の建設が進む

「正統と異端の協育」を実践するため、約5万2千人のOBや大学の資源も活用している。著名な起業家などを招いて講演会を逐次開催している。クラウド名刺管理サービスで台頭しているSansan(サンサン)創業者の寺田親弘社長も塾高出身。「自由な雰囲気が塾高にはありました。常日頃、将来は大きなことにチャレンジしたいと考えていましたが、現在では起業し、世界を変える新しい『当たり前』を生み出すべく日々取り組んでいます」と語る。後輩たちにイノベーションの意義などを訴えた。

このほか企業と連携した実践講座のほか、慶大の協力のもとで司法試験や公認会計士の入門講座、科学講座などを逐次開く。大正製薬とマーケティングの実践講座を実施し、グリーンハウスと「食と健康」に関する講義と実習の開催を予定するなど、キャリア教育を次々実施する。「高大連携もどんどん進めていますが、高校3年生で公認会計士の試験に合格した生徒もいる」と古田校長は話す。司法試験と並ぶ難関試験に高校生で合格するのは極めて珍しい。

海外留学など通じてグローバル人材の育成も進める。これらのプログラムを実行するため独自の基金を設立し、新教育棟も約33億円を投じて建設中だ。地上4階建て延べ床面積5800平方メートル。図書館機能を中心に卒業生との交流の場のほか、トレーニングルームや国際交流ルームなど設ける。

意外な課題

ただ、意外な課題も浮上している。卒業生らに呼びかけている募金の目標金額は15億円だが、「実を言うと、そう簡単に集まらない」と古田校長は話す。慶大の「三田会」は日本最強ともいわれる同窓会で、結束の固さと集金力は他の大学の追随を許さない。塾高の卒業生も、同窓会から軽い飲み会まで様々な場面で集まり、人脈力は高校としては傑出している。

だが、「三田会はあくまでも大学の同窓会なんです。卒業した大学、幼稚舎のように入り口となった小学校に寄付や募金は集まりやすいが、中間の高校はなかなか難しい」(古田校長)という。塾高から日本の未来を担うイノベーターが次々飛び出すのか。70年を迎える名門校の挑戦が始まっている。

(代慶達也)

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