変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

 大きな喪失を経験し、そこから立ち直る過程で、サンドバーグさんは「自信」について考えるようになります。前著の「リーン・イン」では、働く女性の多くが自信喪失に直面しているという問題意識から、まずは男性と同じ会議の場に出て、自信を持って発言し、行動しようと主張しました。しかし、悲劇に直面した後、仕事中に泣いてしまったり、倒れた夫の姿がフラッシュバックして会議に全く集中できなかったり、といったことが起きたそうです。立ち上がることすらままならないのに、今まで自分が唱えてきた「リーン・イン」(一歩前へ踏み出す)を達成するのは難しすぎることに気付きます。

「小さな成功」に目を向ける

 最愛の人を亡くせば、さびしさややるせなさを感じることは予想できる。怒りを感じることも予想できる。でも、予想外なのは――少なくとも私にとって予想外だったのは――トラウマのせいで人生の何もかもに自信がもてなくなることだ。このような自信喪失は、3つのPのひとつ、普遍化の兆候のひとつである。ある分野で苦境に陥ると、ほかの分野の能力にも急に自信がもてなくなる。もとの喪失が、二次的な喪失を引き起こすのだ。
(4 自分への思いやりと自信 89ページ)

サンドバーグさんは、書き、自分自身を客観的にみつめ、日常の小さな成功体験に目をむけることで自信を取り戻していきます。本書を読み進めると、その復活の軌跡を追体験しているような気持ちになります。

本書には、逆境に立ち向かう人を支援するため、サンドバーグさんがインターネットで立ち上げたコミュニティー「オプションB」の参加者の経験も書かれています。ドラッグや投獄、愛する人との死別やレイプなど様々な問題や喪失に直面した人たちが、それに立ち向かう力をどう育て、身につけたのか――。心理学者の分析も交えて描かれているのも読みどころです。米国での売り上げは30万部を超え、米紙「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーランキング(ノンフィクション・ハードカバー部門)に現在まで16週連続でランク入りしています。その理由の一つは、こうした具体的なエピソードの迫力と登場人物の魅力にあるといえそうです。逆境を乗り越え、自ら運命を切り開く力「レジリエンス」について深く考えるきっかけとなる一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者のコメント 堀川みどり

フェイスブックのCOOである著者のシェリル・サンドバーグさんは、夫婦旅行の滞在先でご主人を突然の心不全で亡くしました。父を失った子どもたちのケア、職場への復帰、シングルマザーとしてやっていくこと……本書には、それぞれの局面で悲嘆や苦しみにどう立ち向かったかが、これ以上なく正直に書かれ、とても感動的です(私は試し刷りを読んで泣きました!)。

サンドバーグさんは、家族の死をはじめとする大きな悲しみは、絶対に「乗り越える」ことはできないが、「抱えながら前を向く」ことはできると書いています。本書には彼女が学んだ逆境に立ち向かうヒントもたくさん書かれています。最後まで(特に夫の葬儀での彼女の弔辞まで)お読みいただけるとうれしいです。

ちなみに表紙に描かれたイラストのブロックは「オプションB」の「B」を表しています。装丁は基本的に各国共通ですが、微妙な違いもあります。これから海外旅行に行かれる方は、ぜひ現地の書店をのぞいて探してみてください。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び

著者 : シェリル・サンドバーグ, アダム・グラント
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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