東芝の失敗の本質とは? 社長4人に焦点あてルポ
紀伊国屋書店大手町ビル店

ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店を訪れた。働き方改革、ブロックチェーンやビットコイン……旬のテーマの本が店頭の平台をにぎわせているが、1週間前に訪れた青山ブックセンター本店とは見事なまでに売れ筋が違う。青山で注目されていたスタートアップ系やIT企業経営者の本などは見向きもされていない印象だ。そんな中、先週後半から売り上げを伸ばしていたのは、ベテランの経済記者が東芝崩壊の軌跡をたどった骨太のノンフィクションだった。
東芝メモリ売却先決定で売上げ伸ばす
その本は大鹿靖明『東芝の悲劇』(幻冬舎)。著者は朝日新聞の経済記者。東芝は1990年代後半から著者の取材対象だった。2015年の不適切会計問題以降、崩壊の道を一気にたどっていく東芝の失敗の本質とは何だったのか。この問いに正面から切り込んでいる。
「先週末から今週初めに大きく売れ行きが伸びた」とビジネス書担当の西山崇之さん。半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却契約を、米投資ファンドの米ベインキャピタルを軸とする「日米韓連合」と結んだと発表されたのが9月28日。これをきっかけにふたたび関心が高まったのだろう。虎の子の成長事業を売却するまでに追い込まれた東芝では何が起きていたのか、大手町に本社を置くような大きな企業に勤めるビジネスパーソンには大きな関心事なのだろう。「企業の失敗や崩壊を扱った本はいつも大手町では人気がある」と西山さんは言う。
「東芝崩壊は人災」と断じる
本は、17年8月、記者会見の席上での綱川智社長の表情から書き起こされる。ときおり笑みを浮かべているように見えるその表情をとらえて、著者は「哀れな己の姿を客体視し、悲惨な状況を自嘲しているかのよう」「どこか"他人事"のよう」と書き留める。そして東芝の「凋落と崩壊は、ただただ、歴代トップに人材を得なかっただけであった」といきなり結論を持ってくる。続く6章にわたる本文を読めば、その結論が胸に落ちる。そんな構成だ。
主に語られるのは、この20年の東芝のトップたちの動きだ。第1章で詳述されるのは、後に財界の顕職を歴任する西室泰三氏。続く3代の社長、岡村正氏、西田厚聰氏、佐々木則夫氏の折々の経営判断や発言がノンフィクションスタイルでほぼ時系列に描かれる。技術を核にした製造業だった東芝が、傍流からトップに上り詰めた4人の社長たちが繰り返す見かけ倒しの方策や誤った判断によって、崩壊の種を次々とはらんでいく。そのプロセスが生々しい。「この四代によって、その美風が損なわれ、成長の芽が摘み取られ、潤沢な資金を失い、零落した」「東芝で起きたことは、まさに人災だった」とエピローグで再度語られる結論は重い。
関連本も豊富に陳列
本書を並べた平台には、ウェスチングハウス買収の経緯に焦点を当てたFACTA編集部著『東芝大裏面史』(文芸春秋、5月刊)をはじめ、今沢真『東芝消滅』(毎日新聞出版社、3月刊)、松崎隆司『東芝崩壊』(宝島社、7月刊)が並ぶ。他にも大西康之『東芝 原子力敗戦』(文芸春秋、6月刊)がある。いずれも経済ジャーナリストや新聞記者の著作で、企業を取材してきた人から見ると、東芝問題は日本企業の構造問題の縮図と感じられるようだ。
それでは、先週のベスト5を見ておこう。
1位は著者のトークイベントを開いたため、大きく売り上げが伸びた。営業スキルを伸ばす30のドリルを掲載している。2位はまとめ買いによるランクイン。3位は最新版が出て買い替え需要が伸びた。4位は健康系のビジネス書。睡眠法は大きなヒットになったが、食事術もこれに続くか。確定拠出年金への関心も高い。ここには掲げていないが、6~10位にはブロックチェーンの本などが入る。「旬のテーマから健康、スキル系の本まで満遍なく売れているが、突出した売り上げの本が見当たらない」と、西山さんは話す。
(水柿武志)