ラグビー清宮氏に学んだ人材育成 ヤマハ発動機会長
ヤマハ発動機の柳弘之会長(上)
チーム再生に向け、柳氏は早稲田大学やサントリーの監督を務めた清宮氏を招くことを決意した。

2011年にヤマハ発動機ジュビロの監督になった清宮克幸氏。その指導でチーム力は大きく向上した
選手が抜けてチームは相当苦戦しました。そんなとき、清宮さんに会いに行ったんです。ヤマハにきてくれないかと。清宮さんは、二つ返事で承諾してくれました。正確な心境はわからないけれど、大変な時期であってもこの部をなんとかしたい、という私の気持ちが伝わったんだと思います。
私が清宮さんにお願いしたのはただ1つです。「高い報酬が必要な外国人選手に頼るのでなく、ヤマハに入ってきた連中を練習で堅実に成長させてほしい。そういうチームづくりをしてほしい」ということです。彼はこの約束をきちんと守ってくれました。
清宮さんのチームづくりには、4つの特徴があります。まず「高い目標」を与える。次に、目指す方向感をわかりやすく伝える。3つ目は練習方法を工夫する。そして、人を育てる。この4段階なんです。これが非常にうまい。
清宮さんは、練習の方法をがらりと変えました。ユニークなのは、朝練にレスリングを取り入れたことです。アトランタ五輪の銅メダリストだった太田拓弥コーチを招いて練習に取り入れたんです。清宮さんからは、「レスリングの効果が出るのは3年かかる」といわれました。確かに、3年目からずいぶん強くなってきたんです。
ラグビーの試合は、企業経営とオーバーラップする。もっとも重要なのは人を育てることだ。
企業スポーツは企業経営に似ています。サッカーやラグビーの場合は、プレーヤーと戦略とマネジメント、この3つの要素があるんです。このバランスがうまくいかないと絶対に勝てないな、というのが最近の実感です。
やっぱりマネジメントが悪いと選手がよくても勝てない。シーズン中は、海外出張のときなどを除いてほぼ全部の試合を観戦していますが、試合中の80分間は選手と戦略とマネジメントがバランスしているかな、というのを見ているんです。企業経営とオーバーラップする80分間なんですよ。
ラグビーでも企業経営でも、最も大事なのは人を育てることです。私は人材には「普通の人」「一流の人」「超一流の人」の3段階あると思うんです。多くの場合、普通の人がステップを踏んで、一流から、超一流へと育っていきます。
若い選手を思い切って試合に出す。それが選手とチームの成長につながる。
うちのチームには、五郎丸のような選手もいるけれど、実は学生時代そこまで有名じゃなかった選手が多いんです。清宮さんは、必ず若手、しかも1年目の選手を試合に登用するんです。「挑戦する場」を与える。登用されれば、本人は必ず感謝して精いっぱいやるし、周りも引っぱられて大きく化けていく。