キットカットもバリスタも…CMOは走りながら考える
ネスレ日本専務執行役員CMO 石橋昌文氏

ネスレ日本専務執行役員CMO 石橋昌文氏
ネスレ日本の最高マーケティング責任者(CMO)を務める石橋昌文氏は、チョコレート菓子「キットカット」や自社のあらゆるブランドへの入り口を一本化した消費者向けサイト「ネスレアミューズ」などのマーケティングを手がけ、成果をあげてきた。ただ、こうした成功は、必ずしもあらかじめ描いた設計図通りの結果ではなく、小さな失敗と改善の繰り返しだったという。
完璧な戦略なんてない
――家庭やオフィス向けのコーヒーマシンが好調で、マーケティングの成功例といわれています。
「最初に完璧な戦略を作り、その通りできたわけではない、というのが実情です。失敗覚悟で色々やるトライ・アンド・エラーの末に成功に結びついた例がほとんどですね。まずやってみて、失敗して課題を見つける。そして時代や市場動向を見ながら、工夫や改善で解決して成長につなげるのです」
「例えば、家で使う『ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ』と『ドルチェグスト』は手軽に1杯ずつコーヒーを入れられるマシンです。発売前は『コーヒーはやかんでお湯を沸かして、お湯を注いで……と時間も手間もかかる。そういうものだ』と消費者も我々も思い込んでいました。ところが、マシンを試作してみたら、いれるときの香りがとても良く、カップにきれいに泡ができた。従来のネスカフェのイメージが変わって、おいしく感じたのです。売り出してみたら、1杯だけ入れたいと思う人が実は大勢いたということが分かりました。一人世帯、二人世帯が増えていたんですね」
「オフィスにマシンを置いてもらう『ネスカフェ アンバサダー』も同じです。机のすぐ横にマシンがあって、1杯ずつコーヒーを飲めたら便利です。でもオフィスには自動販売機があるし、スターバックスやセブンカフェでコーヒーを買って持ち帰る人が大半で、どうせ売れないよという雰囲気でした。これもトライ・アンド・エラーで育ったのです」
安売り商品から「お守り」へ
――キットカットを受験生を応援する商品として売るマーケティングは、今や「伝説」のようでもあります。
「キットカットは2000年代から受験生応援キャンペーンを手がけていて、今では受験生の4人に1人が持っているようです。でも、90年代はスーパーの安売り商品でした。キャンペーンのきっかけは、九州で『きっと勝つと』という語呂合わせから受験のお守りとして売れていると聞いたことです。チョコ菓子としてでなく、受験生を応援するツールとして売るべきだと気づきました」