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当時、ゲーマーや、いわゆるオタクに対する社会の偏見はとても強いものがありました。麻布でもまったくなかったとは言いませんが、それでも自由を標榜する麻布は、他の高校に比べてマイノリティーに寛容な風土があったと思います。

一浪して東京大学理科一類に入学した。

大学は東大しか考えていませんでした。父親が東京医科歯科大学の出身で、卒業後も退官までそこで教授をしていましたが、その父が子供の私に向かって、「俺は東大に行けなかったんだよな」という話をいつもしていました。それが、私に対する「東大に行け」というメッセージに聞こえたのです。

でも、高3の時の模試の成績から判断すると東大合格は厳しい状況で、案の定、浪人しました。

浪人してからも相変わらずゲームセンターに通っていました。むしろ、浪人して早々の模試で東大合格圏内に入ったため、この状態を維持すれば間違いなく合格すると確信し、再びゲームに熱が入りました。朝から夕方まで予備校で勉強し、午後6時からゲームセンターに入り浸り、帰宅は午後11時。入試の2日前までゲームセンターに通っていました。

東大時代も数多くのゲーム大会に出場していました。また、ちょうどその頃、プロゲーマーという職業が生まれました。私は最初、大学院に進み普通に就職しようと考えていました。周りがみんなそうするからです。しかし、しのぎを削ってきた仲間がプロになるのを見て、「ここでプロゲーマーにならなければ、きっと後悔する」との思いを強め、東大大学院を中退してプロゲーマーになる決心をしました。

昨年のエボリューションでは、2600人超がエントリーした「ストリートファイターV」部門で、決勝で世界ランキング1位の米国人選手を破り、見事優勝。賞金約400万円を手にした。

最近、「eスポーツ」という言葉がよく聞かれるようになり、ビデオゲームが五輪の種目に採用される可能性も議論されています。

ひょっとしたら自分が日本代表として五輪に出られるかもしれない。そう考えると、とてもうれしい半面、自分だけがずっと応援していた売れないアーティストが、急にメジャーになって自分の元から離れていってしまうようでもあり、ちょっと複雑な気分です(笑)。

今は麻布にも「e-sports同好会」というのができて、生徒がeスポーツを思う存分楽しんでいるようです。人目をはばかるようにやっていた私からすれば、隔世の感が否めません。ようやく時代が追いついた。そんな感慨深い気持ちです。

(ライター 猪瀬聖)

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