「大学はジャングル」 京大総長のゴリラ流リーダー論
京都大学の山極寿一総長(上)
――ディスプレー合戦ではどんなことをするのですか。
「ディスプレーには、体を揺すって特別な音を出し、草をちぎって投げて、胸を叩いて突進して、地面を叩くなど9つの動作があるんですが、これが相撲の仕切りとそっくりなんですよ。力士が塩を投げるのに対し、ゴリラは草を投げる。土俵の両側に立ち、胸を広げてかしわ手を打つのは、ゴリラが胸を叩くドラミングと似ている。相撲では仕切り線に拳をつけて、にらみ合います。ゴリラも拳で地面を突くナックルウォーキングをします。並列社会においてオス、男のかっこよさを極めていった結果、非常によく似たものになったということでしょう」

ゴリラとともに(2008年、アフリカのルワンダにある火山国立公園にて)=山極氏提供
「重要なのは、そこで勝ち負けを決めるわけではないということ。ゴリラのリーダーに求められるのは『負けない心』なんです。攻撃し合わずに張り合って、周囲も自分も納得して引き分ける。いま人間の社会では、負けないことと勝つことが混同して語られていますが、実は人間も『負けない』という姿勢によって並列社会を作ってきたのだと思います。勝とうとする精神は、相手を屈服させ排除しようとするので、自分はだんだん孤独になっていく。でも負けまいという姿勢は、相手を対等に見るので、友達を失わずに済む。だから仲間ができる。そうやって人間の集団もつくられていったのでしょう。ゴリラと人間の社会の底流に流れているものは極めて近いと思います」
えこひいきをしない 泰然自若としたリーダーシップが理想
――他にゴリラのリーダーシップの特徴はありますか。
「公平であることです。リーダーは、メス同士や子ども同士の間に起こったトラブルを仲裁しますが、決してえこひいきはしない。えこひいきをすると、されなかったほうは恨みを抱き、離れていこうとしますから。リーダーは、どちらかに加担することなく、トラブルそのものを瞬時に止める。そこから信頼感が芽生えます」
「ゴリラは言葉を話しませんから、態度が非常に重要です。まさに『背中で語る』です。ゴリラのリーダーは、メスに対しては決して後ろを振り返りません。君らがついてくるのは振り返らなくてもわかっているよ、という威厳を見せないといけないからです。でも子どもがついてくるときは、振り返る。ちゃんと気遣っているよ、というのを態度で示すのです。リーダーは子どもに頭を叩かれても毛を引っ張られても動じません。200キログラムもある体を安易に動かすと、子どもを踏み潰してしまう危険もあるからでしょうが、その泰然自若ぶりは見事です」