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――2014年に総長に就任した時、ゴリラのリーダーを意識しましたか。

「総長になったのはまったく予想外の出来事だったので、記者に取り囲まれて会見したときは、頭が真っ白になっていました。最後に『山極さん、座右の銘は何ですか』と聞かれた時、ふっとゴリラが頭に浮かんで『泰然自若です』と答えました。それを言ってしまったあとに、じゃあ、そうなろうかと思ったんです。物事に動じないのがリーダーのリーダーたるゆえんかなと。まあなかなかなれませんが、右往左往しない、あたふたしないというのは重要だと思います」

「大学は多様な生態系でなければならない」 総長は調整役と旗振り役

――よく「大学はジャングルだ」と話していますね。

「自分は調整型のリーダー。みんながやりやすい環境を整える」と話す

「自分は調整型のリーダー。みんながやりやすい環境を整える」と話す

「ジャングルは、常に新しい種が生まれる、陸上生態系で最も多様性が高い場所です。大学も、学生や研究者が常に入れ替わり、学問分野も多種多様。そしてジャングルも大学も、中に生きている多様な生物同士はお互いをよく知らずとも、一つのまとまった生態系として機能している。ジャングルが、太陽からの豊富な光や雨という『外部』との関わりなしには存続しえないのと同様に、大学も外の資金や社会との関係なしには生きていけない。そこに着目すると、おのずと大学経営もできるのではと思っています」

「僕はずっとフィールドワークをしてきた経験から、まずは観察者として、学内に生息する『猛獣たち』や組織のあり方を見てみることにしました。その上で、猛獣たちが能力を最大限発揮できるように調整役を果たす。それが総長の第一義の役割だと考えました。大学は、階層社会ではなく並列社会であるべきだと思っているので、みんなを従わせるのではなく、みんながやりやすいよう環境を整える調整型リーダーシップです」

「ただ、学内では調整役に徹するとしても、学外では大学を代表してものを言わなくてはなりません。そして、大学の構成員が理解し、共感できるような目標を掲げ、実現に向けて旗を振らなくてはなりません。まあ旗を振るまではいかなくても、少なくとも全体をまとめているような顔をしてなくてはいけません(笑)。そこで泰然自若としたゴリラの態度が参考になるわけです」

――総長に就任以降、社会や世界に開く窓の意味を込めた「WINDOW構想」を掲げ、国際研究拠点の新設など大学の競争力向上に努めてきました。改めて京大らしさとは何でしょう。

「よく東大と比べられますが、権威をつけないところでしょう。教授も『さん』づけ。僕も学生に山極先生とは呼ばせない。先生と呼んじゃうと、どうしても従う姿勢になってしまいますから。東大から来た人は最初は戸惑うみたいですけどね。上下ではなく対等な関係があるからこそ『先生とは違うことをやってやろう』という気持ち、創造性が生まれる。そういう伝統を大事にしたいですね」

山極寿一
 1952年東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学、理学博士。日本モンキーセンターリサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、同大理学研究科助教授、教授、研究科長・理学部長を経て14年から現職。国立大学協会会長、日本学術会議会長、モンキーセンター博物館長なども兼任。専門は人類学、霊長類学。

(ライター 石臥薫子)

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